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花とご令嬢の攻防戦
ガタン、とヘンリエッタは思わず立ち上がる。どうして!? と続く言葉は衝撃のあまり出てこない。わなわなと唇が動くがそれだけで、ただただ相手を見つめる事しかできない。
「やあヘンリエッタ」
レオン・ファン・リートフェルトが朗らかな笑みと共にそうヘンリエッタに声を掛ける。一つ、二つ、三つ、と数えてそれが十を過ぎた辺りでヘンリエッタは淑女にあるまじき大声をあげた。
「やあ、ではなく!!」
「迎えに来たよ?」
「でもなくて!」
「来ちゃった」
「お帰りください!」
ええー、とレオンは不服も露わに唇を尖らせる。そんな顔をしても美形は美形のままなのだから羨ましいやら憎たらしいやらだ。
「どうしてリートフェルト卿がここに!?」
「君を迎えに来た、というか、貰いに来たというか」
「……は?」
ギュイン、とヘンリエッタの眉間に皺が寄る。言葉の奥になにやら不穏な気配を感じてしまい、つい身構えてしまうがその予感は悲しいかな的中してしまう。
「わたしは今日、テイスデル様との結婚についてこちらに来ているのですが……」
「君が身売り同然でホーヘンバント伯に嫁ぐと聞いたから、それを横から掻っ攫いに来たんだよ」
伯爵を名前で呼ぶヘンリエッタに対し、レオンは家名で呼び返す。ほんのりとした器の小ささを感じつつも、今はそれどころではない。
「はぁ!?」
「君の事情は把握している。そのために彼と結婚をするのなら、彼と同じ条件、いやそれ以上を提示するから俺でもいいだろう?」
「いっ……いいわけ」
「あるよね」
「ないでしょう!!」
「なぜ?」
「なぜ……?」
前にもあったなこんな会話、と去来するのは先日の夜会での一時だ。またあれを繰り返すのかと思うと一気に疲れがくる。さっさと会話を終わらせて彼をここから追い出さなければならないというのに、そこまで気力が持つか不安で堪らない。
「結婚を前提に付き合って欲しいと切望するくらい好きな相手が、みすみす不幸になるのを見逃せるはずがないだろう? それに君自身を逃がす気もないし」
頬に熱が集まるのは仕方がない、と思いたい。少なくともレオンに好意を抱いているのは事実であり、そんな相手からこうもはっきりと口説かれてときめきを堪えるのは無理な話だ。しかしそれでも頷くわけにはいかないし、あとさらに不安を煽る様な事を言ってくるのだからヘンリエッタの警戒心は募る一方である。
「本気で仰ってるんですか……?」
訝しむヘンリエッタの態度は失礼にも程があるはずも、レオンは一向に気にする素振りもなくただ一つ頷く。
「そう」
「返事が軽い……!」
ついそんな突っ込みが漏れてしまう。レオンはこれにも眉を顰める事なく「ははは」と軽く笑うだけだ。
「俺の言動が信じられないのは自業自得だからね、これから挽回していけるよう頑張るよ」
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