花とご令嬢、再び

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「いいですかリートフェルト卿。わたしは勝負に負けた罰で告白をしてくるような人間なんです。それがいくら好きな方であったとしても、失礼にも程があります。そんな無礼者を受け入れるなど言語道断です」 「俺自身がそれを望んでいるのに?」 「相応しくないと言っているんです」 「だから、俺も自分自身が望んでいると言っているけど?」 「ですから」 「初めの時はまだ貴女の言に一理はあったけど、今は純粋に貴女に興味がある」 「……は?」 「貴女が好きだよヘンリエッタ嬢」 「は!?」  唐突な愛の言葉にヘンリエッタの顔が驚きに固まる。直後、ギュンと音を立てそうな勢いで眉間に皺が寄るが、その皺の一つ一つも可愛らしいとレオンの目には映るのだから、頭の片隅に花が咲いているなあとレオンは他人事の様に思った。 「あの……いくらノリと勢いとはいえ、流石にそういった言葉を軽々しく口になさるのは人間性が疑われるかと」 「貴女の中での俺の評価がよく分かる言葉だね。そう言われても仕方のない行動をしていたのだから自業自得と反省して、これからはもちろん貴女一人だけに想いを届けるよ」  まだ言うのかこいつ、とでも言わんばかりのヘンリエッタの表情にレオンは苦笑を浮かべ、改めてもう一度彼女に気持ちを伝える。 「結婚を前提に付き合っていただけませんか、ヘンリエッタ?」  これにはレオンが本気であるとヘンリエッタも理解したらしい。が、その後彼女の口から出てきたのはおよそ口説き文句に対する返事としては想定外すぎるものだった。 「お……お気をたしかに!!」  よもやそんな返しが来るなど誰が予想できようか。盛大に吹き出しそうになるのを堪える事ができたのは奇跡でしかない。それでも流石に直視したままではいられず、レオンは顔を背けてブルブルと肩を震わせる。  ヘンリエッタも己の口から出たあまりにも酷すぎる言葉に今宵一番の動揺をみせるが、それでも最後の気力を振り絞って立ち上がった。 「そういうわけでこの話はこれにて終了です! リートフェルト卿の未来に幸多からんことをお祈りしております!!」  そうしてクルリと背を向けると、レオンの制止の声よりも早くその場から逃げ去った。それはもう見事な逃げ足っぷりで、貴族のご令嬢でもあれだけの速度で走る事ができるものなのだなあとレオンは妙な感心をしてしまう。  かくしてレオンの夏の夜の奇妙な出来事はこれで終わり、またいつもの日常が訪れる――とはレオン自身がさせなかった。  これまで飄々と生きてきたレオンが初めてと言ってもいいほどに興味を持ち、そして惹かれた相手である。このままみすみす逃がしてなるものか。あの場で逃がしたのは必ず捕まえる自信があったからにすぎない。  さてこれからどうするべきかと、レオンは今後を考えては愉快そうに口元を緩めた。
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