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すると当の本人がポカンとした顔でレオンを凝視する。ん? とレオンが首を傾げれば、だんだんと彼女の眉間に皺が寄り、ややあって出てきた言葉は「は?」と言うなんとも短いものだった。
「……あの、今、なんと……?」
「君から俺が好きで、結婚を前提に付き合って欲しいと言われたので、そうしよう、と」
「それはつまり、わたしの話をお受けになると……?」
「そういう事だね?」
チ、チ、チ、と時を刻む音が三つ続いた後に彼女の眉間に皺がギュンと寄る。
「いや……いやいやいや違うでしょうそうじゃない、そうじゃない!!」
見事なまでの渋面。およそ貴族の令嬢がしていい顔ではない。というかそもそも年頃の女性がするものではないだろう。けれども彼女はまるで頭痛に耐えるかの様にこめかみを指で押さえ深く呼吸を繰り返す。
「なにがだろう?」
「なにが……なに、が……! ああもうこれはあれですねちょっとお時間よろしいですかリートフェルト卿!? わたしとお話をしていただきたいのですが!」
なんだか見覚えのある顔だなあと思いつつ、レオンは彼女に連れられて中庭に出た。ちょうど庭の中央にあるガゼボ、のベンチを勧められて腰を下ろす。今までレオンの胸元辺りにあった彼女の顔が見上げる位置だ。そこにある表情、にようやくレオンは思い至る。幼き頃、侍女のメイサがレオンを叱る時の顔にそっくりだ。
「とりあえず、君も座らないか? あと、そろそろ名前を教えてもらえると嬉しいんだが」
「……初めてお目に掛かりますリートフェルト卿。ヘンリエッタ・キールスと申します」
彼女はレオンの隣、拳を三つほど空けた位置に腰を下ろし――そうして怒濤の説教が始まった。
「本当にありえませんリートフェルト卿!」
「よければ名前で呼んでくれないかなあ?」
「それはあまりにも馴れ馴れしくはありませんか!?」
「でもヘンリエッタ嬢とはほら、これから親しくなる仲なわけだし。なんならそのまま結婚」
「だから簡単に話を受け入れてはなりませんと申し上げましたよね!? リートフェルト家のみならず、ご自身が王家にとっても重要であるということをもっと自覚なさってください!」
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