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王太子の側近であり友人、侯爵家自体も長きに渡って将軍職を務めている重鎮の一つだ。侯爵家を継ぐのは兄のハーネストだが、兄弟仲は悪くはないのでいずれ兄を支えるつもりでいる。
「リートフェルト家……ええもうそれではお言葉に甘えて今宵だけはレオン様と呼ばせていただきますね! 先程から何度も申し上げておりますが、いくらレオン様が社交界の花、もしくは花と花を飛び交う蝶、有り体に言ってしまえば女好きのロクデナシだとしてもです! 守らねばならぬ血筋とお立場をもう少し考えるべきでしょう!」
怒られている。二十歳を超えてしばらく経つが、こんなにも女性に怒られているのは子どもの時以来だ。あととてつもなく失礼な事も言われたが、それは事実なのでレオンは大人しく耳を傾けている。
「単純に見目麗しいレオン様の寵愛を狙う者もいれば、お家の権力を狙う野心家もおりましょう! 百歩譲って付き合うだけならまだしも、その後の結婚まで了承とは不用心、考え無しにも程があります!! 特に婚姻は貴族社会においてどれ程重要か、いかに自由奔放、お気楽極楽を体現なさるレオン様でも少しはお分かりなのでは!?」
繰り返すが告白してきたのは彼女の方だ。レオンはそれを了承しただけ。だと言うのにこの状況はあまりにも理不尽ではないのか。しかしレオンはこの状況こそが楽しくて仕方がない。未だかつてこんな目に遭った事などない。いやむしろ世の男性誰一人として同じ目に遭った事はないだろう。
「聞いておられますか!?」
「ああ……そうか、貴女が【至論の令嬢】か」
レオンのその言葉にヘンリエッタの口がピタリと止まる。どうやら正解であったらしい。
至論の令嬢――ヘンリエッタ・キールスがそう呼ばれる様になったのは一年前のとある出来事が原因だ。
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