至論の令嬢

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「ここからが本題です」 「……まだ本題ですらなかったのか!?」 「十中八九、ニールス様は勘当されるでしょう。公爵家を内側から貶めたのですから、その場で首を撥ねられないだけマシですね。さて、そうなった時にどうなさいます? 生まれてこのかたずっと公爵家の跡取りとして砂糖水より甘く育てられてきたニールス様に、はたして庶民の生活が耐えられますか? 下手をしたら庶民以下の生活かもしれない可能性もありますよ。身ぐるみを全て剥がれて路上に放置されるかもしれませんもの」 「そっ……それほどまでのことを僕がしたと言うのか!?」 「なさったんです、それ程までのことを。ご自身に一切非がないとはいえ、年頃になった途端それまでの婚約者に破棄を突きつけられた、というだけでマリーナ様も謂われなき中傷にさらされているんです。マリーナ様の名誉も、貴方は傷付けたのですよ」  ニールスの顔から血の気が失せる。心変わりはしたけれど、それも結局はヘンリエッタが言った様に思春期を拗らせ、自由な恋とやらに憧れて、たまたま知り合ったユリアナと恋に落ちた。そこにマリーナに対する不満はなく、また彼女を傷付けたいという気持ちは欠片も無かったのだ。もしマリーナが異を唱え、少しでも嫉妬めいたものを見せてくれたらニールスは再び彼女の元へ戻るつもりでいた。しかしどこまでも控え目な性格をしている彼女はそうはしなかった。だから、ニールスは戻る機会を見失ったまま蛮行を続け、ついにはこんな事態を招いてしまったのだ。 「公爵家の威信は元より、伯爵家となによりもマリーナ様の名誉のために、ニールス様は断罪されるでしょう……さて、ここでユリアナ様にもお尋ねします。貴女様は、公爵家の身分を剥奪されたニールス様とそれでも愛を貫きますか? いいえ、貫けますか?」  それが終止符となった。ユリアナは首を横に振り、呆然となるニールスを置いて逃げた。彼女としては、公爵家子息のニールスが好きなのであって、ただのニールスには一切興味はなかったらしい。あまりにも潔く立ち去るものだから、ヘンリエッタは思わず拍手を送ってしまった。  憐れなのは残されたニールスだ。ユリアナと別れた事により勘当はなんとか免れたが、一度壊れたマリーナとの関係はどう足掻いても修復ができない。心を入れ替え、誠心誠意の詫びを見せ、マリーナもその謝罪を受け入れはしたが、けれどニールス自身は拒絶したまま。そうこうしている内にマリーナは遊学中の隣国の第三王子に見初められ、つい先日婚約者として公表された。まるで物語の様だと、一部の令嬢達の間で猛烈な声援を送られている。
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