花とご令嬢、再び

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「――顔、です」  余程悔しいのだろう、ヘンリエッタは苦悶に満ちた声でそう答えた。 「顔」 「はい……リートフェルト卿のお顔が、大変好みなんです……!」  レオンの容姿に惹かれて寄ってくる女性は多い、というかむしろそれを抜きで寄ってくる事が皆無に等しい。レオンは己の顔の良さを自覚しているし、それを武器にもしているので容姿に寄ってこられる事に基本嫌悪感は持っていない。が、それでも、あまりにも容姿、そしてそこからの家柄ばかりに固執されると一抹の寂しさや苛立ちを感じてしまう事はある。  しかしどうだろう、ヘンリエッタに顔が好みだと言われた事に関しては喜びしかない。ほわほわとした胸の奥底から沸き上がる感覚。これはそれこそ大昔に抱いた初恋、を彷彿させる。思春期かな、と知らず口元が緩んでしまう。 「貴女に好まれる顔で良かったよ」 「……いいえ! 良くありません!! だめですリートフェルト卿!!」  心の底からのレオンの言葉であったのだが、それがヘンリエッタの何かしらに火を点けた。 「人を見た目だけで判断して、それで好意を抱くなどいけません! リートフェルト卿はお顔だけで無く、まあ色恋沙汰に関しては尊敬される様なものではありませんが、けれども恋愛の絡まない人付き合いであるとか、仕事に関しては基本誠実で真面目なんですから! そういった点もきちんと理解している相手でなければ!」  ちょいちょい合間に入る悪口すらも心地よく聞いてしまうのだから、なるほどこれが惚れた弱みと言うやつかとレオンはうんうんと頷く。 「それはつまりは貴女と言うわけだ」  「耳の穴をかっぽじってよく聞いてくださいます!?」 「これまで数多くの女性に声をかけられて、当然彼女達なりの愛の言葉も聞かせてもらってはいたけれど、俺の顔と家柄以外をそうやって認めてくれたのはヘンリエッタ嬢が初めてだから。つまりは、そういう事」 「ではありません!! 百歩譲ってわたしがリートフェルト卿のそういったことを口にした初めての人間であったとしても、それ以上に決して許してはいけない点があります!」 「そう……? ああ、俺に対して遠慮なく罵ってくるところ?」 「そこについては申し訳なく思いつつ、けれどもそう言われざるをえないこれまでの御自身の所業によるものですから諫言として受け取っていただきたく……って違いますだからそうではなくて」  若干の突っ込み疲れなのか、ヘンリエッタは数回呼吸を繰り返す。思い返せばたしかにずっと彼女は勢いよく話し続けている。 「今さらだけど場所を変える? どこか部屋を用意してもらおうか?」 「お……お気遣いなく」  なんだかこのまま話が終われば彼女は逃げ出してしまいそうだ。ふとそんな予感がして誘導してみたが、レオンのその動きをヘンリエッタも察知したのか即座に断りを入れる。
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