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彼女に案内されて向かったのは個室で、全席がそうなのだとしり場違いだと改めて思う。
「ここならゆっくり話せるし、美味しい料理も食べられますよ」
「はぁ」
「さて、料理はお任せでいいでしょうか」
「はい。お願いします」
給料日前に痛い出費になりそうだ。
運ばれてくる料理は高そうな器に少量の魚だったり野菜だったりで、上品な味付けというやつなのだろう、繊細すぎてよくわからない。
「ふふ。舌に合わないようですね」
「え?」
顔に出ていただろうか。
「いえ、俺がバカ舌なだけです」
「私は立場上、こういう店を利用しますが、ラーメンやハンバーガーが恋しくなりますよ」
「社長が、ですか」
「ええ。学生の頃はそういうものばかり食べてました」
同じなのだと知り、嬉しくなった。
「かわ」
「え?」
「いえ。本当はそういう場所にお誘いしたかったのですが、君に聞きたいことがあったので個室のある場所と思いまして」
自分なんかに何の話しだろうか。特に思いつくことがなく、ほぐれた気持ちに緊張が走る。
「君の勤務時間を見させていただきました。一人だけ残業が多いようですが、仕事の割り振りに問題がるのでしょうか」
「いいえ違います」
「それでは時間内に仕事が終わらないということでしょうか」
それも違う。自分の仕事は時間内に余裕で終わっている。残業してまでやっている仕事は別のひとのものだ。
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