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きっと呆れただろう。
このまま社長室へと戻るかと思ったが、
「手伝いしますよ」
とファイルを半分とり隣の席へと腰を下ろした。
「いえ、これは俺がやります」
「一人より二人の方がはやいですよ」
そういうとパソコンを立ち上げて打ち始める。
睦月はタイピングも早く、あっというまにデータ入力が終わった。
「そろそろ彼女の待遇を考えなければいけませんね」
「え、あ」
彼女が他の部署へと移動になるのはかまわないが、いつもほんわかと優しい睦月が、少々怖い顔になっている。
「これ、ゴミ箱に入っていたのを拝見しましたよ」
丸めずに捨てたメモ。それを指に挟んでひらひらと振る。
「残りの仕事お願いします、ですか。貴方が彼女の仕事をしていること、課長は知っていますよね?」
気が付いていると思う。だが課長も彼女には甘いので見て見ぬふりをしているだろう。
「多分、ですが」
「わかりました。それでは一緒に帰りましょう」
「え?」
「仕事を手伝ったのですからご褒美下さい」
ご褒美という言葉に、浮かんできたのはキスの二文字だった。
そっと睦月を見れば、指で自分の唇をとんと叩く。やはりそうだと混乱し、
「無理です、無理」
と手をクロスさせて罰点を作る。
「ふっ、ふふ、何を想像したんです?」
何を想像したのかわかっているのに顔を近づけて尋ねてくる。
からかわれたのだ。恥ずかしくて、
「手伝っていただきましてありがとうございます」
鞄を手にし帰ろうとするが、後ろから抱きしめられて動けない。
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