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「社長」
「すみません。あまりに可愛いもので。つい」
可愛いとは誰のことか。
まわりを見渡すがふたりしかいない。いや、そうだとわかっていたが確認せずにはいられなかった。
「可愛くないですよ」
どこからどうみても可愛いから縁遠い。不愛想だと陰口を叩かれるくらいなのに。
「可愛いですよ」
耳元でささやかれて胸の鼓動が高鳴った。
「やめてください」
これ以上は心臓が持ちそうになく、森村を抱きしめる腕に触れた。
「放しませんよ。強引な手を使ってもわからせないといけませんからね」
「ひゃっ」
耳を噛まれて体が跳ねる。睦月の方へ顔を向けようとすると、顎をつかまれてそのまま上向きにされ唇が重なった。
何故、睦月は混乱させるようなことをするのだろう。
こういうことに不慣れな男には刺激が強く、気持ちを保つことができない。
一回、ひとまず休みがほしい。
「ん、まって」
だが睦月はやめることなく、口づけはさらに深まっていく。
「ふっ」
足の力が抜け倒れそうになる体を睦月がしっかりと抱きしめる。
「もっと私を意識してください」
ね、と森村の口の端を親指で拭う。
とうに容量を超えているのに更に詰め込まれて、しかもキスで足腰が立たなくなって逃げるに逃げられない。
都合よく気を失うことができたなら。この悩ましい思いをその間だけ考えずにすむのに。
「森村君、タクシーで送りますよ」
「……す」
睦月の肩にもたれタクシーへと乗り込む。
その後は前の日と同じ。
ただ、ひとつだけ。思い出したら下半身のものが反応してしまった、ということだけが違っていた。
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