闇夜を照らす優しい月光

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<3>  思い人とは、恋しく思う人。  色々なウェブ辞書で調べてみたが同じようなことが書かれている。 『もっと私を意識してください』  睦月からそういわれたことがある。そして彼女たちに森村はそういう対象なのだと話をしたということだ。 「ぬあぁぁっ」  我慢しきれずトイレで叫んでしまった。これから一緒に仕事をすることになるのに何故話してしまったのだろう。  秘書課にきてから一度も顔を見ていない睦月を恨みつつ鏡の中の自分を見つめる。  特に特徴のない地味な男。惚れる要素がどこにあるのだろう。  ドアが開く音が聞こえ、誰か来たとうつむいてトイレから出ようとしたが、漂う香水の匂いで相手がわかり顔をあげる。 「社長」 「貴方がトイレから出てこないと土田がいうので見に来ました」  そんなに長くいてしまったか。まだ仕事中だというのに。 「すみません。すぐに仕事に戻ります」  今は顔を合わせられない。睦月を意識してしまっているから。 「駄目ですよ。顔が真っ赤じゃないですか。熱があるのでは」  額に掌を当て自分の額の熱と比べる睦月に、違いますとその手をつかんで離した。
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