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答案の紙飛行機を拾ったというきっかけで会っただけに過ぎなかった相手は予想を裏切り比良に声をかけてきた。
ただ、二階から何かを落とすことはなく声をかけてくる。
まさかと驚いたが、それも何度目かになると慣れた。周りの友達もはじめの頃はどういう知り合いだと聞かれたが今では恒例のことのように比良だけを置いて教室へと戻っていく。
二度目、三度目のあたりは周りの目もあり呼ばれるのが嫌だったが、仁志と友達は優しい人で話をしていても楽しい。
回を重ねていくうちに彼らに会うのが楽しみになっていた。
仁志がよく声をかけてくるのは四時間目の体育が終わった後だ。
「比良君」
名前を呼ばれて見あげると、窓から顔をのぞかせて仁志が手を振る。
自分の方から会いにはまだ行きにくいので声をかけてもらえるのがうれしかった。
「なんでしょうか」
「ちょっと教室においでなさい」
と手招きする。
「わかりました」
二年の教室へと向かう。
「仁志先輩」
「見た目があまりよくないが、妹が作ったクッキーなんだ。たくさんあって食べきれなくてさ。貰ってくれないかな」
カタチがいびつで見た目はあまりよろしくないが、ためしにと口の中へといれられた一枚は美味かった。
「美味いですよ」
「友達にも食べてもらって」
女子が焼いたと口にすれば喜んで食べるだろう。
「ありがとうございます」
「おう」
話しは終わり教室へと戻ろうと出入り口へと向かったが、振り返り、再び仁志のもとへと戻る。
「どうした」
「あの、連絡先を交換しませんか?」
紙飛行機が落ちてきた日。持ち主のもとへと届けておしまいと、比良の中ではそうなるハズだった。
しかし仁志は話しかけてくるようになり、今では物をもらうまでとなった。
ただの先輩後輩から友達になりたいが相手の反応は違った。困ったなというような愛想笑いを浮かべていたのだ。
なんて恥ずかしい勘違いをしていたのだろう。友達になれると思っていたなんて。
仁志にとって比良はただの後輩でしかなかったようだ。
「あ……調子に乗っちゃいましたね。失礼します」
「待って比良君」
呼び止める声が聞こえたがはやくここから逃げ出したくて無視をする。
ショックを受けるくらい仁志が人として好きになっていたからだ。
教室へは戻らずに屋上へと向かった。
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