夕立に濡れた君が訪れた

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 リビングに向かいソファーへと腰を下ろす。雨は止みそうにないし雷は更に近づいてきたのか音が大きくなっていた。 「マジではやく止んでくれよ」  スマホの画面に表示されている時計はそろそろ三時となろうというところ。  だがまるで日が落ちたばかりの薄暗さだ。  外が見えぬようにカーテンを閉めて膝を抱える。音が鳴るたびにビクビクとしていると、 「シャワー、ありがとうございました」  声とともにふわりと甘いにおいがして振り向いた。タオルで髪を拭いながら山川が立っていた。 「お、おうっ」  ほっとした。一人でないことに。  だがすぐに山川に頼ったことが恥ずかしくなって立ち上がった。 「水、飲むか」 「はい。貰います」  冷蔵庫から水のペットボトルを一つ、自分用には温かい飲み物を入れた。  息を吹き付けて少しだけすする。それを見ていた山川が、 「俺、すごい猫舌なんですよ」  火傷をしたわけでもないのに小さく舌を出す。 「知っている。たまたまお前の彼女が話しているのが聞こえてきたんだよ」 「彼女、ですか?」  目をぱちぱちとさせて、まるで知らないというような表情だ。  彼女は嬉しそうに話をしていた。その相手が山川だとしても幸せになってほしいと思っていたのに。  頭に血が上り、声を荒げて彼女の名を告げるが、 「付き合っていませんよ」  とぼけられてさらに怒りがこみ上げる。 「嘘をつくなよっ」  気にくわない男だ。胸倉を取ると引っ張った。 「お前、彼女の心を弄んだのか!!」 「弄ぶって、そんなことはしていませんよ。告白されましたが理由を告げて断りました」  告白は本当。だが付き合ってはいない。多木は目を見開いたまま山川を見る。するとつかんでいた手に彼の指先が触れて驚いて手を離した。 「だから、あの日は落ち込んでいたんですね」  気が付いていた。それに動揺し今度は自分のシャツをつかんだ。 「おまえ、なんで」  声がかすかにふるえる。 「彼女のことを気にかけていることは知っていました。よく見ていましたよね。俺もそうだったので」 「え、お前も?」  こんなにもイケメンな男でもそんなことがあるのか。湧き上がる親近感。だが、あることに気が付いた。 「なぁ、それって……」  彼女には告白された。ということは見ていた相手は別の人ということ。  嫌な予感がする。多木は視線をさまよわせた後、ゆっくりと山川の方へと向ける。  ばちりとまるで音がたったかのように視線が合う。その目は熱っぽく潤んでいた。  ごくりとつばを飲み込む。  その時、まぶしい閃光とともに大きな音をたて、多木は飛び込んではいけない場所へと向かっていた。 「多木さん」  これはまずい展開だ。 「雷がっ」  離れようとするが山川の腕が多木の体をつかんで離さない。 「山川、驚いた――」 「好きです」  驚いて抱きついてしまっただけだから。そう言いたかったのに。  多木の言葉をけすように、耳元で告げられた言葉。それを打ち消すような轟音は鳴らないのだろう。  告げられてしまった。しっかりと多木の耳に届くように。  山川の手が頬に触れ、徐々にイケメンな顔が近づいてくる。  あぁ、ついてない。この状況はすべて夕立のせいだ。 <了>
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