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自分は綺麗で優しい。こんな根暗で愛想のない男にも態度をかえずに接しているのだから。
いい人ぶった調子のいい女、それが隣の席に座る立花に対する森村の印象だ。
当たり前のように仕事を押し付け、嘘の笑顔をはりつける。しかも自分に惚れていると勘違いまでして。
仕事を断らないのはある理由があってのことだ。別に友達も恋人もいない、都合の良い男。そう思われていてもかまわない。
今日も一人残って立花の残した仕事をする。対した量でもないのにどうして時間内に終えられないのか不思議だ。
まぁ、彼女は仕事をするのではなく媚びを売りにきているのだろう。
無能なのにクビにならずにすんでいるのは、課長を含め男共が守ってくれるし、仕事は森村がやっているからだ。
「お疲れ様です」
眼鏡の下の柔らかい笑顔を浮かべ、ビニール袋を手にこちらへと向かってくる。
「……す」
これが森村が残業をする理由で、相手は会社の社長である睦月だ。
歳は三十代後半だと噂で耳にしたことがある。容姿も立ち振る舞いもよく、まだ独身ともあり女子社員が恋人の座を狙っている。しかも気さくに話しかけてくれるので女性だけでなく男性にも評価が高い。
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