白い女

ーーーーピンポーン。　

つい今しがた、引っ越し業者は全ての段ボールを家(うち)に運び終わり、トラックの荷台に、養生マットや空いた段ボールを突っ込んで帰ったばかりだった。

「あら、引っ越し屋さん忘れ物かしら」

私はインターホンの音に手元の作業を止めて扉を開ければ、真っ白のワンピースを見に纏い、長い黒髪を一纏めにした女性が立っていた。

「えっと、あの……どちら様でしょうか？」

すぐに女性が切長の目を細める。

「突然すみません。初めまして、向かいに住んでいる、杉原(すぎはら)です」

「あっ、あの、今日から向かいに越してきました、小林(こばやし)です」

私はペコリと頭を下げた。

「荷解きでお忙しいかと思ったのだけど、つい気になって……ご挨拶かねて訪ねさせて頂きました」

「あ、わざわざすみません。引越し荷物を捌くのにバタバタしていて……本来なら、こちらからご挨拶に伺わなきゃいけなかったのに……」

私は部屋の中を振り返ると散乱している段ボールの中から、引越しのご挨拶用に包んでもらった洗剤を手渡した。

「あら、ご丁寧にありがとう。で、早速ですけど……小林さん、下のお名前は？」

「私？ですか？」

唐突に聞かれた質問に、私は思わず聞き返していた。