美しく咲いてる姿を覚えていてほしかったから

2/4
前へ
/4ページ
次へ
僕と彼女が出会ったのは、桜が咲く季節だった。 その頃、僕は花なんて興味なかったけど、初めてできた彼女に少しでも好かれたくて、僕も花が好きなんて、そんなことを言ったっけ。 それから僕らは、たくさんの花を見に行った。 つつじに、紫陽花、ひまわり。 コスモス、ダリア、サルビア。 数えきれないくらい沢山の花を見に行って。 いつのまにか僕も、花が好きになった。いや、本当は、花に囲まれて嬉しそうに笑う彼女のことが好きだったのだ。 花を見る彼女は、本当に嬉しそうで。 頬を赤く染める姿が、とても可愛らしかった。 だから彼女が、 「春になったら、出会ったころに見た桜をもう一度見に行こう。桜はね、満開の時が一番綺麗。散った後を見ても悲しくなっちゃうから、少しずつ花びらが減っても平気なフリをして、最後は誰にも見せないようにパーッと花びらを落すんだよ。堂々と咲いてこっそり散る。だから桜を思い浮かべる時、花が咲いた満開の綺麗な桜を思い浮かべるんだ。」 って、そう言って笑っても何の疑問ももたなかった。 どんな思いで彼女がそんなことを言ったのか全く知らず、僕はただ、嬉しそうに笑う彼女がまた見られるのだろうって、そう思っていたのだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加