- 壹 - 迎えを待つ

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 実際のところ、たしかに後宮に入った后妃の生活は、(おのれ)自身でする事など、たかが知れていた。  日々の細々(こまごま)としたことや身の回りの世話はすべて女官が取り仕切っている。  綉葩本人がすることといえば、せいぜい凝った刺繍をすることか、窓辺に座って庭を眺めることだけ。  そして、たまに求められる夜の伽。  なお、書物を読むことは禁じられていた。后妃に皇帝の機嫌を取る以外の知性は必要ない、という理屈だった。  豪勢な料理も、華美な衣装も、はじめこそ心が揺さぶられたものだが、そんな時期はあっという間に過ぎ去った。  あとに残されたのは、退屈を持てあますだけの膨大な無為の時間。  貴人、という地位は、後宮の后妃としては決して高くはない。  つまり皇帝からの覚えも特にめでたいというわけではなく、伽を申しつけられる機会も少ない。  そんな存在なのに、一度後宮に入ったなら、一生ここから出られることはない。  なんとも虚しい人生だと、綉葩は思う。  他の后妃たちは権勢争いに夢中なようだが、自分はどうにもその手のことは苦手だ。  しかし、この足では逃げ出すこともかなわない。  ここで生き続けていくことを受け入れるしかなかった。
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