15人が本棚に入れています
本棚に追加
実際のところ、たしかに後宮に入った后妃の生活は、己自身でする事など、たかが知れていた。
日々の細々としたことや身の回りの世話はすべて女官が取り仕切っている。
綉葩本人がすることといえば、せいぜい凝った刺繍をすることか、窓辺に座って庭を眺めることだけ。
そして、たまに求められる夜の伽。
なお、書物を読むことは禁じられていた。后妃に皇帝の機嫌を取る以外の知性は必要ない、という理屈だった。
豪勢な料理も、華美な衣装も、はじめこそ心が揺さぶられたものだが、そんな時期はあっという間に過ぎ去った。
あとに残されたのは、退屈を持てあますだけの膨大な無為の時間。
貴人、という地位は、後宮の后妃としては決して高くはない。
つまり皇帝からの覚えも特にめでたいというわけではなく、伽を申しつけられる機会も少ない。
そんな存在なのに、一度後宮に入ったなら、一生ここから出られることはない。
なんとも虚しい人生だと、綉葩は思う。
他の后妃たちは権勢争いに夢中なようだが、自分はどうにもその手のことは苦手だ。
しかし、この足では逃げ出すこともかなわない。
ここで生き続けていくことを受け入れるしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!