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それから幾日も青兎はナギ様の元を離れていた。
そんなことはこれまでになかったことで、ナギ様は酷く案じていた。
しかし、押し寄せるように神殿に救済を求めてくる人々を癒すことで、ナギ様は必死だったのだ。
「青兎はどうしていますか?」
神官の者に訊ねても、口を噤んで答えようとはしない。
「私はあなたの心を覗くことが出来ます。ですが、あなたにとって、それは不快でしょう。私は真実をあなたの口から聞きたいのです」
神官はナギ様に諭され、畏まった。
そして、青兎が内乱を鎮めるために、戦に駆り出されていることを告げたのだ。
「ナギ様を引き渡せと、辺境を統べる豪族らが決起したのです」
現王の治世に不満を抱く者らが、有力な豪族らを抱き込んで戦を仕掛けてきたのだ。
「青兎は最前線にて鬼神の如く功績を挙げております。きっと、無事に帰って参りますよ」
ナギ様は居ても立っても居られないほどに動揺した。
青兎はナギ様が好きだと言ったこの国の為に戦っていた。
青兎は青兎に出来る術でナギ様を護ろうとしていたのだ。
――嗚呼、嗚呼……。
ナギ様はこれほど己を責めたことはなかっただろう。
己の力の無さに絶望したことも無かったに違いない。
――どうして皆が手を取り、助け合えないのか……?
ナギ様は綺麗ごとを言うしか術のない己を恥じた。
「ナギ様、可哀想……。いったい、どうすれば良かったの?」
子供らは眉根を寄せて、ばあ様を見つめた。
「そうだねぇ。ばあ様にも分からない。どうしようもない時、人は神様に頼ってばかりだからねぇ」
ナギ様は神殿を抜け出した。
駿馬を呼んで、ナギ様は馬を馳せた。
勿論、馬に乗るのは初めてのこと。
それでも馬は心に通じて、ナギ様を青兎の元へ送り届けたのだ。
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