ナギと青兎

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「青兎ぉ、青兎ぉ」 力の限り、ナギ様は青兎の名を呼んだ。 驚いたのは青兎だ。 鬼神の如く返り血や、己自身の血に濡れた青兎と、真っ白な神服に身を包んだ美しい女神のナギ様。 この戦場に不相応なナギ様の姿に青兎は一時、戦を忘れた。 その隙を突かれて、青兎の背に弓矢が刺さった。 膝を着いた一瞬の間に、振り落とされた剣を躱しきれずに腕を落とした。 それでも青兎は渾身の力で、敵の首を掻き斬った。 「来るなぁっ!!!」 青兎はナギ様だけには見られたくなかったに違いない。 多くの者を殺めた鬼の形相、鬼の手に他ならない。 そして、青兎が鬼に堕ちたのは他の誰でもないナギ様の為だった。 「ナギィ、俺は地獄に落ちる人間だ。だから、お前は来るなぁっ!!!」 ナギ様の手で救われるわけにいかないと、青兎は必死だった。 それこそ意味がなくなる。 青兎はナギ様を護るためにあるのだから。 「青兎が地獄に落ちるなど無い。青兎はこのナギの神様なのだから」 ナギ様は渾身の力を振り絞って神通力を放った。 それこそ命そのものを懸けて願いを込めた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加