想い出は骸に

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その後、お互い暇だからということで、その日ランチを一緒にして、そこで互いが今何をしているのかを教え合った。日向子は記者として働き、二宮もそこは正直に警察官であると話した。その時の日向子の言葉は彼にとって忘れられない一言となった。 「二宮くんは、ずっと作家を目指してがんばってると思ってた______」 彼女のその言葉は、一度その道を挫折した二宮の心にグサリと刺さったのだ。別にその言葉がショックだったとかではない。具体的な感情はわからないが、一度その道で対決した相手に完膚なきまでに叩きのめされた自分を、また思い知らされている気がしたのだ。 「ほら、俺、才能ないからさ______」 二宮はそう寂しそうに答えることしかできなかった。しかし、日向子はそんな彼を勇気付けた。その言葉も、今でも彼の中に残っている。 「そんなことないよ!私、二宮くんの小説好きだよ?トリックとかも他の人には思い付かないようなものばかりだったし、色を表す漢字をわざわざ旧字体で書くところとか、凝ってて面白いじゃない!」 自分のこだわりが彼女にはたしかに伝わっていた______。それがわかった時、二宮はこの上ない嬉しさに包まれた。誰にも理解してもらえなかったそのこだわりが、日向子には理解してもらえている______。その事実は、また彼を小説の世界へと引き戻したのであった。 それからの二宮は、7年ぶりに筆を取った。警察官として働きながら作家を目指す______。改めてそう志したのである。警察官だからこそ書ける推理小説を書く。そして、みんなを認めさせる______。それまでもう書けないと思っていたのに、どんどんと溢れ出すアイデアは止められない。
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