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その昔、私は男の人と暮らしていました。
彼は世界と折り合えなかった。安定した職業と地位を、世界は彼に与えてはくれなかったのです。その慰めを彼は酒色に求めて、外でお酒を飲んできては私に暴言を吐き、暴力を振るっていました。
私はなぜその人と一緒にいたのでしょうか、他に行く場所がないと、そう思っていたのです。そんな酷い男の人でも、自分は耐えなければならないと、そう思い込んでいました。
きっと私は現状維持に努めることで、私自身、私と彼をその境遇に留め置いていた。それでも私は、自分がこの上もなく哀れな存在だと、誰かが救ってくれるはずだと、そう考えていたのです。
私は流産を繰り返し、やがて子供が産めない体になりました。
でも、彼が変わってくれると、私はそう信じていた。
彼はやっぱり酒に溺れていました。
そうして、その言葉を吐いたのです。私の体と、死んだ赤ん坊を侮辱する言葉を。
私は、限界だと思いました。
怒りでも悲しみでもない、限界だと思った、それだけだった。
気が付いた時には、私は手にしていた硬いもので、何度も彼を殴りつけていた。
彼は血塗れで呻いていました。生きてはいました。彼が結局どうなったのかは、私には分かりません。
動けない彼をその場に置き去りにして、私は車に飛び乗ると、帰らない旅に出ました。そして、この教会に辿り着いたのです。
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