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罪あるものの楽園
彼がそこに辿り着いたのは、辺りが暗くなり始めた時間だった。
その一帯は平らな草原で、円弧を描く断崖が海に向かって垂直に切れ落ちている。生えている木といえば丈の低い灌木ぐらいで、辺りを見渡すことに不自由はしない。森がこの崖から数十メートル奥に後退していたのは、絶えず吹き付ける海風のせいかもしれない。この付近を車で進む間に彼が見たのは、風で曲がりくねった松の木だった。
晴れていれば絶景と言えたかもしれない。だが、その日はずっと灰色の曇り空で、そんな景色も、彼の内面に巣食う陰鬱さに拍車をかけていた。今にも雨が降りそうな空はしかし、一日中持ち堪えていた。
どうせだったら、雨が降ってくれれば。そんな風に彼は思う。
一度雨が降れば、その湿気は空から取り払われ、明るい空も覗こうというものだ。ぎりぎりで持ち堪えるというのは、陰鬱な時間がそれだけ長く続くということだった。
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