プロローグ

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 鳴海(なるみ) (れい)は、にぎやかな街をいつもより軽い足取りで歩く。  ショートの髪を冬の冷たい夜風がさらい細身の体がぶるりと震えるが、その程度の事は今日ばかりは気にもならない。  仕事を終え、利用客の『この後夕飯でもどう?』なんて誘いを普段通り笑顔でかわし、通常ならスーパーに寄ってまっすぐ一人暮らしのアパートに帰るだけだが、電車に乗ってここへやって来た。  たどり着いた所謂アニメショップでCDの売り場へとまっすぐに向かい、新譜のコーナーで足を止める。  ジャケットが見える様に整然と陳列された中から目当てのものを手に取り、そこに記された名前を人差し指でそっとなぞる。  相山(あいやま) (あずさ)――  このシチュエーションCDのキャラクターボイスを担当している声優の名だ。  ただの字ではあるが、それを目にしただけでここ数ヶ月の疲れだとか被り続けた笑顔の仮面が、ゴトンと鈍い音を立てて床に落ちる心地を覚える。  怜にとっていちばんの楽しみと言っても過言ではない。
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