第二章:怨意、恩威

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第二章:怨意、恩威

 偉大なる創造主は、ある日きまぐれに「自分に模した」存在を作りたもうた。 名を”ニンゲン”とす。 創造主は大層その生物を気に入り、とてもとても可愛がった。 姿かたちが自身に似ているから、という理由だけではない。 彼らが初めて自身の考えに”否定的な意見”を述べる貴重な存在だったからだ。 創造主が創造した生き物たちは、決まって”肯定”しかしない中、彼らだけが、主の言いなりにはならなかった。  創造主は気になった。彼らはどこまで私に従順でいられるのだろうか。 作り主である私に対する態度、それ次第で、楽園に居続けさせるか否か、決めようと考えあぐねいていた矢先、 「偉大なる主よ、貴方がなさろうとしていることは、何となくわかります」 楽園の中でも崇高な知性を誇る蛇が、創造主に言った。 「貴方は彼らを愛するが故に、愛しすぎるが故に、試すおつもりだ」 創造主は感心した。蛇は創造主に次ぐ”賢明さ”を備えている。 だからこそこれは必然の出来事でしかないのだが、それでも主は感銘を受け、蛇に全てを任せることにした。  さて、蛇はニンゲンを唆すことに無事成功し、彼らは知恵の実を口にした。 結果はどうだった?ヤツら、見え透いた責任転嫁でその場をやり過ごそうとした。 創造主が知らないとでも思ったのか? 全部お見通しの上で、お前たちを試そうとしていたことに、本気で気が付かなかったとでも言うのか?  俺は決して納得しない。 翼をもがれ、足をもがれ、この地に堕とされた原因であるお前たちを、俺は決して許さない___  桐山くん? …!? (俺は…寝てたのか…?) 桐山くん、今のはマズいと思うよ流石に。がっつりうつ伏せで寝てたからね。保野さんに見つかるとヤバいよ? はい、気を付けます… はいはい。てか、油断するとまた敬語。  天花先輩、このクソみたいに退屈な空間の唯一の癒しの風のような存在。 たった1年しか違わないが、俺はこの人を本気で尊敬している。 だからつい敬語を使ってしまうが、そのたびに「いいからいいから」と、タメ口を推奨してくる。 いつでも同じ目線に立ってくれて、肩を貸したり貸せと言われたりできる貴重な存在。 有能であるがゆえに、異動の噂が常に付きまとっているのが今の俺の唯一の憂いだ。 いつまでもいてくれるわけじゃない。いつまでも世話になるわけにはいかない。  そんな憧れの先輩は、もういないんだ。
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