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「……という会話を新入生がしていましてね。
ふふ……噂の女神様が目の前にいらっしゃるのは非常に気分が良い。」
「…だから今日は随分とご機嫌なのですね。」
「貴方と会える時はいつでもご機嫌ですよ?」
「私は普段の貴方を知りませんから」
学園の中央に聳える巨大な校舎
学園を統一し、教師すらも凌駕する多大な権力の持ち主である生徒会役員を有する生徒会室
そのまた上の階に存在する鳥籠
そこで1人の生徒が生活をしている
あの有名なHIBIKIグループの次男であり日々樹の『幻の姫』
そして、『学園の女神様』である
家柄、成績共に優秀であるだけでなくなんと言っても容姿が非常に美しい
祖父の異国の血が色濃く現れた銀色の髪は息を呑む程美しく、光に当てられると柔い金糸のように輝く様は見る者を強く惹き付ける
陶器のような白い肌に薄く色付いた唇、中でも双方に輝くアメジストのような濃い紫色の瞳はまるで宝石である
そしてそれらが顔として絶妙なバランスで配置され、最早芸術と言っても過言ではない
あまりの美しさに蝶よ花よと囲われてまさに鳥籠の中のお姫様のような扱いをされて生きてきた彼の名前は日々樹 八雲
自室で優雅にティータイム中の彼はこの学園のれっきとした生徒である
しかし、彼が教室に赴き、学友と共に授業を受けることはない
あまりの美しさに入学初日から彼はこの鳥籠から出ることが叶わなくなった
彼には常に護衛がつき、授業の内容は特定の数人の生徒がこの部屋に教えに来る
「普段の私なんか知らなくていいのですよ。…ここでの私が私の全てですから」
そう笑って紅茶を啜るのは生徒会副会長である鈴谷 恵
目を引く漆黒の髪は八雲と並ぶと対称的に綺麗に映える
校内では『氷の女王』と呼ばれる彼もこの部屋ではその普段の姿は見る影もなく、非常に機嫌よく紅茶を飲んでいる
彼も八雲に魅せられた1人なのだ
「…そういえば、最近校内はどうですか」
「春の陽気に充てられて騒がしい者が多いですよ、呑気なものです」
「良い事でしょう。ここにもたまに…元気な声が聞こえてくるんですよ」
世間話を交えつつ、また必要な情報をやり取りする
長いようで短い時間はすぐに終わりを告げ、お茶会の終了を知らせる鐘が鳴る
「鈴谷様。そろそろお時間です」
「えぇ、本日も大変楽しい時間を過ごせました。では、また1週間後にきますね」
「こちらこそいつもありがとうございます。また今度。お待ちしておりますね」
彼らと同じくらいの歳であろう少年が鈴谷に声をかけると、鈴谷は大人しく従い立ち上がる
最後に挨拶を交わし、鈴谷は部屋を出た
「和泉」
「はい、八雲様」
「……行った?」
「えぇ、鈴谷様はもうこのフロアにいらっしゃいません」
「そう………
はぁ〜〜〜〜〜終わった〜〜!!
やっぱり俺に人と話すなんて無理なんだよぉ……授業内容教えて貰うだけなのにあんな子来るとか聞いてないし……人と上手く喋るのすら難しいのにあのかっこいい子相手とか無理でしょ。ねぇ和泉もそう思わない?」
「八雲様の美しさに勝るものはございません。…確かに鈴谷様も美しいお顔ですがまだ人間の範疇です。八雲様には程遠いかと」
「ほんと和泉は俺のこと…特に顔は過大評価するよねぇ、大したことないのに」
「過大評価しているつもりはございませんが…、申し訳ございません、お茶が冷めてしまいましたね、直ぐに新しいものをお淹れします」
足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなると八雲は今まで鈴谷に見せていた『日々樹八雲』としての顔を取り払った
先程鈴谷に声を掛けた少年、大代 和泉は冷めた紅茶を下げると新しい紅茶と彼の好きな菓子を出す
八雲は機嫌良さそうににっこり笑うと和泉に座るよう促した
「あぁそうだ和泉、楽にしてくれて構わないよ」
「……いつにも増してご機嫌だな、八雲」
先程までの口調はどこへやら、随分とぶっきらぼうな言い方へと変わる
綺麗に整えてるとはいえ、体格が良く少々目つきの悪いイケメン…一般的に怖がられる風貌の彼に合う話し方に八雲は窘めることはせず寧ろ口に薄く弧を描いた
「ふふ、そう見える?」
「あぁ、いつもは人が来た後は荒ぶり様が凄いからな。これだけ上機嫌なのは珍しくて気味が悪い」
「随分な言い様だなぁ、ふふ、でもいいニュースだよ、俺にとってはね。さっき父さんから連絡があって、婚約破棄に向けて一歩進んだらしい」
八雲がそう言って紅茶を一口飲むと同時に椅子がガタリと音を立て和泉が勢い良く立ち上がる
「和泉」
「ッ申し訳、ありません………」
そんな彼に八雲は驚く様子もなくただ一瞥する
和泉の慌てように反して何でもないように口を開いた
「驚くのも無理ないよ、ずっと向こうが渋ってたからね。実は俺の婚約者様は婚約のこと知らなかったみたいでさ、知った今、向こうから拒否してくれたよ」
「…八雲様を、無下にする人間が…?」
「あぁ違う違う、会ったことすらないよ。俺の顔も知らないだろうし、そもそも名前すら知らないんじゃないかな?『日々樹の許嫁』としか。」
「婚約破棄、なさるんですよね?」
「まぁ、今の調子だと出来そうだよね。向こうは顔も知らない親が勝手に決めた許嫁とかって考えてそうだし。 恋人でもいるんじゃないかな。
それに俺に誰かと結婚なんて荷が重いよ、幸い俺は跡継ぎでもないし父さんはずっと家に居ていいって言ってくれてるし……」
そう、HIBIKIの宝、学園の女神様は引きこもりであった
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