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1.魔女の森
昔々、山の中に小さな村がありました。村人たちは畑で野菜を作ったり山で獣を獲ったりして生活しています。でもその暮らしはとても貧しく、自分の分け前を取られないようにと皆いがみ合ってばかりいました。
村の外れには不思議な場所があります。周りの木々が枯れ果ててもそこだけは花咲き乱れる〝魔女の森〟。でもその森に村人たちは決して足を踏み入れようとしません。なぜならそこに住まう魔女は恐ろしく見つかったら最後、むしゃむしゃ食われてしまうと言われているからです。今までに何人もの人が森に入ったまま帰ってきませんでした。
ある日、村に住むゲルダという少女が森の近くで薬草を摘んでいました。病気の祖母に煎じて飲ませるためです。ゲルダの両親は既に亡くなっており彼女は祖母と二人で暮らしていました。祖母は意地悪でゲルダをまるで召使のように扱います。それでもゲルダには他に頼る人はいません。彼女は今日もため息をつきながら薬草を探します。
「よし、これだけあれば十分ね。……ん?」
薬草を摘み終え腰を上げたゲルダが鼻をひくつかせると、今まで嗅いだことのないような素晴らしい香りが鼻腔をくすぐります。
「何ていい香り。そうだ、せめてこの花を摘んでお部屋に飾ったら気持ちも晴れるんじゃないかしら」
つらい毎日を送るゲルダはそう思いました。でも香りが漂ってくるのは魔女の森。決して足を踏み入れてはならぬ禁忌の地。ゲルダは思案します。
「ほんの少し、ほんの少しだけなら大丈夫」
自分にそう言い聞かせ森へ足を向けました。
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