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「まぁ、何て素晴らしい場所なんでしょう」
森は馥郁たる香りに満ちていました。ゲルダはその香りに誘われるかのように奥へ奥へと進んでいきます。
「これは……!」
季節は冬。村の木々は枯れ果て無残な姿を晒しているというのに森の奥は真っ白な花で覆われていました。
「あら、あれは?」
真っ白な花畑の中央に、何とも不思議な色合いの花が一輪だけ咲いています。その花びらは刻々と色を変え七色に輝いていました。ゲルダは見ているうちにどうしてもその花が欲しくなってしまいます。
「こんな綺麗な花をお部屋にあれぱ毎日きっと幸せな気分で過ごせるわ」
ゲルダが七色に光る花にそっと手を触れた、その瞬間。
「あっ!」
何と花は粉々に砕け散り消えてしまいました。何とも悲しい気持ちで項垂れるゲルダ。その時、恐ろしい声が響き渡ります。
――この愚か者! 人間風情が我が庭で何をしている!
この森に住むという魔女に違いありません。ゲルダは必死に元来た道を引き返します。でもどれだけ走っても森から出ることはできませんでした。
「ごめんなさい、ごめんなさい。どうか許してください!」
泣き叫ぶゲルダに魔女らしき声は言いました。
――ふん、あの七色の花を元通り咲かせることができたら許してやってもいい。あれを咲かせるにはとても手間がかかるからね。
ゲルダは許してもらえるという言葉にほんの少し希望を見出します。ただ、あんな不思議な花をどうやって咲かせればいいか皆目見当がつきません。
「でも、どうやったらいいんでしょう。私にはわかりません」
両手を揉み絞り天を見上げて尋ねると魔女はくつくつと嗤いました。
――まずこれを持っていくといい。
その台詞と同時に何やら天から降ってきます。ゲルダは慌てて受け止めました。
――ではやり方を教えよう。まずはここに咲く魔法の白い花を摘んでいけ。あとは……。
魔女の語る花を咲かせる方法というのはとても恐ろしいものでした。聞き終えたゲルダの顔はその恐ろしさのあまり新雪のように真っ白になります。すると、何ということでしょう。彼女から色という色が全て消えてしまいました。澄んだ湖のような蒼い目も、宵闇のような黒髪も何もかもが真っ白に染まってしまいます。哀れゲルダは魔女の呪いにかかってしまったのです。これを解くにはあの花を咲かせるしかありません。ゲルダはぎゅっと唇を噛みしめ魔法の白い花を摘み取ると、魔女から渡されたいくつかの物を手に村へと帰っていきました。
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