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翌日、カールは再び隣り村に向います。
「魔女の館、か」
正直怖くないわけはありません。魔女の館にはいろんな噂があります。館に近付いた者はカエルにされてしまうとか、大鍋で煮られて魔女に喰われてしまうとか……。
「魔女なんかいるはずないさ。ちょっと花を摘んでくるだけ、大丈夫に決まってる」
カールは自分にそう言い聞かせ一歩踏み出します。村の中を通るのは怖いので少し遠回りして森の中を行きました。そこはとても美しい場所でいたるところに花が咲き乱れ、とてもいい香りが漂っています。カールはその香りに引き寄せられるようにしてふらふらと足を進めます。
「お、あれか?」
遠くに一軒の屋敷が見えます。と、同時にくらくらするほどの芳しい香りに襲われました。強烈な香りに酔ってしまいそうです。カールはまるで蝶が花の香りに呼び寄せられるかのようにして奥へ奥へと進んでいきました。もはや警戒する心などどこにもありません。
「ん、誰かいる」
屋敷の周りは一面真っ白な花が咲き誇っておりその中にひとりの女性がいました。カールはひと目見てその女性が普通ではないことに気付きます。何と彼女の目も髪も肌も何もかもが真っ白だったのです。あれは魔女だ、きっと魔女に違いない。頭ではそう思い逃げ出そうとするのですが逆に足はどんどん彼女に近付いていってしまいます。
「あら、お客様?」
女性は柔らかな笑みを浮かべました。
「さぁお茶でもどうぞ」
カールは屋敷に招き入れられ、お茶を勧められます。隠し味よ、と彼女はガラスの小瓶を取り出しました。カールはその中身を恐る恐るお茶にふりかけます。するとあら不思議、お茶から何とも言えない良い香りが漂ってきました。口にしてみると今まで飲んだどんな飲み物よりも美味しく、カールを幸せな気分にします。
「あ、ありがとう。何だか眠くなってきちゃった。僕帰らなきゃ。そうだ、お花を一輪くれませんか」
カールは頬を赤く染め女性を見上げます。すると女性はすっと目を細めてカールの顔を覗き込みました。
「そうね、じゃあちょっとお手伝いしてもらえるかしら」
「お手伝い?」
「ええそうよ、お花に肥料をあげなきゃと思っていたところなの」
なぁんだ、そんなことかとカールはこくりと頷きます。女性は満足気に微笑むとカールの頭をそっと撫でました。
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