ラブリー・ガール!

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ラブリー・ガール!

 俺の幼稚園からの幼馴染に、オトコオンナがいる。少なくとも、俺は昔からあいつをそう呼んでからかっていた。  本名、桜木冬華。名前だけ見れば女らしくて可愛らしいのに、実際の素行と行ったらゴリラそのものである。ショートカットで、昔から小学四年生になった今に至るまでずーっと俺よりでかくて生意気なやつ。格闘技をやっているからか、肩幅も広いし結構がっしりしてる。まあ、俺よりでかい、には俺がチビだっていう悲しい現実も含まれてはいるんだけども。  いつもズボンしか履かないし、顔は中性的ってやつだし、ランドセルだって青色だ。はっきり言って名前見なかったら、誰もあいつが女の子だなんて思わないだろう。  そんな冬華と俺の関係は一言で言って、喧嘩友達、これに尽きる。  幼稚園の時から。 『やーいやーいオトコオンナー!お前なんか、此処まで登って来られないだろー!』 『なんだと!?』  だったり。 『やーいお前なんかな、こんなにたくさんのお餅なんか食べられねーだろー!』 『なんだと!?』  だったり。 『お前なんかなー!お前なんかなー!喧嘩で男に勝てるわけねーんだよばーかばーか!』 『なんだと!?』  だったり。  ことあるごとに俺は冬華をからかって喧嘩に持ち込み、そして悲しいかなそのたびに地面とキスして泣く羽目になるのは俺の方だった。  俺はいつも悔しかった。いつかあいつを負かせてやると思っていたし、あいつに勝てない弱い自分がみじめで仕方なかった。  かけっこ、喧嘩、綱引き、学校の成績。何から何まで俺はあいつに負けてしまう。そんな俺を見ていつもあいつは大笑いしていたのだった。 『ふん、ざまぁねえな光!アタシに勝つのは千年はえーんだよ。修行して出直してきやがれ!』 『ちくしょー!』  俺にとって冬華は、目の前に聳える高い高い壁のようなもの。ずっとそう思っていた。だからあいつに毎度のように絡むし、あいつに勝つためにしょうもない悪口も言っているのだと。そもそも、俺は別にあいつのことが嫌いでもない。嫌いじゃないけど、あいつと喧嘩するために悪口攻撃しているようなものだった。本当にそれでいいんだろうか、なんてちょっとだけ思いながら。  きっと俺達の関係は、小学校を卒業しても、大人になってもきっとずっとずっと続いていくんだろうと思っていた。それが、俺にとってどこまでも当たり前だし、多分楽しいことでもあったから。  そう、思っていたのに。 「……何してんだよ、オトコオンナ」 「……うるさい」  いつも秋までずっと短パン半袖、女の子らしい服なんてずっと着ないような冬華がだ。  ある日突然、ひらひらのピンクのワンピースを着て、頭にはお花の飾りまでつけてきた。俺の問いかけに、悔しそうにうつむいて。 「お前には関係な……あなたには関係ないです。話しかけないで」  喋り方まで、女の子らしくなっていた。  俺は口をあんぐりと開けるしかなかったのである。
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