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あからさまに、避けられている。
それからの数日、俺は非常に面白くなかった。冬華は突然スカートばっかり着てきて、髪型も女の子らしくしてきて、しまいにはお嬢様みたいな喋り方を始めたのである。確かに、元々顔は悪くないから可愛くないと言えば嘘になる。でも、明らかに本人は顔色が良くないし、周りも心配している状態。でもって、俺がいつものように絡みに行こうとすると反論もしてこないで黙っていなくなるのである。
何かあった、のは明白だった。
「面白くねえ!面白くねえよ兄貴!!」
「まあまあ落ち着けって光」
「だってさああああ!学校がここ数日マジで退屈なんだぜ。あいつ、どうしちまったんだよ!!」
俺には歳の離れた兄がいる。小学四年生の俺と、高校三年生の兄貴なので八歳も年上だ。兄貴は受験生で忙しいはずなのに、俺が悩みを吐露するとあっさり相談に応じてくれた。兄貴のベッドの上に横たわってじたばたする俺に、笑いながら話しかけてくれる。
年が離れていることもあって、俺にとって兄貴は喧嘩仲間とかでは全然なかった。どっちかというと、物心ついた時から“良き導き手のお兄さん”だったと言えばいいのか。――だからこそ、代わりに冬華との関係が兄弟じみたものになっていたのかもしれない。
「冬華ちゃん、明らかに無理してるんだろ?自分で女の子らしい服とか着たがらないっていうし」
「それは、間違いないと思う」
がばり、と身を起こして言う俺。
「ほんのちょっと前だぜ。お前スカートとか履かないのかーってなんとなーく訊いてみたら、あんなスース―するのぜってー無理って返ってきたんだもん。足を開いて座れないし、布を破きそうで嫌だし、木登りもできないし……そもそも女の子らしいものは全部アタシには似合わない!って」
「そっか。……じゃあ誰かに女らしくしろって言われたのかもなあ」
「誰かに?」
「そう、誰かに。例えば、そこそこ発言力のある親戚のおばちゃんみたいな人とか?」
それは、あるかもしれない。あいつは俺の前では自由奔放そのものだけれど、先生とか目上の人の前ではだいぶ態度が違うからだ。先生に対しては男言葉も使わない、どころかずーっと敬語で喋る。なんだかんだ、親にそういう教育を徹底されているからだろう。
だとすると、親戚にそう言う人がいて苦言を呈されたのなら、嫌々でも従うしかない――になったりするのかもしれない。
「……そんなの気にしなくていいのに。あいつが本当に女らしい服を着たくてそうしてるならいいけど、そうじゃないってならさあ」
俺はぶう、と唇を尖らせた。
「それに、俺が嫌だ。いつものあいつらしくないし、あいつにはいつもの服とか喋り方のが似合ってるし」
「ふうん」
俺の言葉に、兄貴はにやりと笑った。
「つまり、光は冬華ちゃんが好きなわけだな」
「は!?べ、べ、別にそういうんんじゃ」
「でも嫌いじゃないんだろ?」
「き、嫌いなわけではない、けど……」
好き?自分が、あいつを?
とっさに否定してしまったが、こうして考えてみると自分はずーっと冬華のことばっかり見ているし、今だって彼女のことばかり考えて悶々としている。
自分は、冬華のことが好きだったんだろうか?女の子として、意識していたのだろうか?あんな乱暴でゴリラなオトコオンナなのに?
「好きってのは、恋愛でも友達でもなんでもいいんだって。好きな友達が、自分の好きなことを好きなように出来てない。だからお前はムカついてるんだろ?」
そんな俺の混乱を察してか、兄貴は続けた。
「だったら、ストレートに冬華ちゃん捕まえて言ってみろって。……お前の言葉だって、少しは何かの助けになるかもしれないんだからさ」
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