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サトウは後ずさった。
「これ以上俺に近付くな……」
サトウの尋常ならざる反応に、その場にいた一同は凍り付いた。
サトウの正面でそれを振りかざした態勢で固まっているのはスズキだった。彼もまた、他の者と同様にこの状況を理解できないでいた。
もしそれを所持していたのが彼でなかったならば、タナカかタカハシであったならば、彼らはひとまずそれを取り下げただろう。イトウだったならば、冷静にもっとよくサトウと話し合ったに違いない。
しかし、今それを手にしているのはスズキなのである。
彼は考える。よく分からないが、どうやらサトウはこれ以上俺に近付いてほしくないらしい。
ということは、これ以上近付かなければ問題がないということだ、よし、了解した。
「了解したぞ、サトウ!」
サトウの顔が恐怖に引きつるのにも気付かずにスズキは明るい笑顔を浮かべ、その長身のさらに上、頭上に掲げていたそれに素手で圧力を加え始める。
スズキ以外の他三名はおおよそ事態を把握しつつあったが、スズキは場の空気を読むことが得意ではなかった。彼は脳筋であった。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「うわああああああああああああ!!!!」
パンッ。
室内に一発乾いた音が響き、それと同時にサトウの叫び声も途絶えた。
放心したサトウの視界には、ひらひらと舞うカラフルな紙吹雪と、自身の握力で割った風船の残骸を手に張り付けたまま「誕生日おめでとう!」と満足げに笑うスズキの姿が映り込んでいた。
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