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宝生薫視線
その日いつものように近所の公園に月を見ようと出かけた、いつも自分が座るベンチに知らない人がいた。
月の光を浴びたその人は淡い月の光に包まれて美しく静かに月を見ていた。
あまりにも綺麗で月よりもその人を夢中で見ていた。
思わず自分から話しかけた・・・・
「こんばんわ」
「一人?」
「月を見ていたの?」
十三夜月が好きだと言った私に「ぼくも」そう答えて笑ってくれた。
無口で言葉は少なかったけどまた明日もこの場所で月を見ようと約束をした。
明日になるのが楽しみで朝から天気を気にしていたのに・・・・・・その日に限って雨・・・・
そんな・・・・・・雨が降ったらあの人は来ない。
それなのにその日からずっと雨・・・・・・いったいなぜかと誰かに聞きたいくらい雨が降り続く。
あの人はどうしているのだろう?私の事を忘れてしまわないだろうか?
月が連れて来たような不思議な人・・・・・・僕も・・・そう言ってジッと私を見て笑った顔に胸の奥がキュンとなった。
毎朝空ばかりを眺めていた、曇っても雨でも月が出ないと逢えないのに・・・・・・早く晴れて。
やっと晴れて朝から気持ちがウキウキとしていた、暗くなるのを待って急いで公園へ行くと桜の木の下であの人がベンチに座っていた。
桜の花より月よりもあの人の方が美しい・・・・・・桜と月とあの人と・・・・・儚い夢のようなあの人・・・・
今にも消えてしまう夢幻の世界から来たような不思議な人。
髪に桜の花びらが落ちていた。
そっと手を延ばして花びらを摘まんだ、目を閉じた彼の頬に触れる。
引き寄せられるようにその唇にキスをした。
彼の頬に流れる一筋の涙・・・・・・月の光を浴びてキラキラと輝く涙。
手を振れることも憚られた。
いけないことをしてしまった・・・・・・そんな僕に彼は何も言わなかった。
胸が苦しくなって・・・・・
「帰りましょうか?」
そう言ってしまった。
あの人は「はい」と言っただけ・・・・・
次の日も公園に行った、逢いたかった。
でもあの人は来なかった・・・・・
次の日もまた次の日も公園に行ったけど・・・・・・
彼は来なかった・・・・・
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