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何も感じない心
眩しいライトと数台の大きなカメラ、レフ板・・・・・雑然とした部屋に俺はいた。
「右向いて」
「つぎは左ね」
「後ろ向きで顔だけこっちへ」
「いいよそのまま」
言われたままに動く・・・・笑うことも怒ることも泣いたことも一度もなかった。
子供のころから自分の感情を露わにしたことがない・・・・・
カメラマンの指示通りに動く・・・・・・人形のように無表情でいいと言われたから・・・・カメラの前に立った。
俺の名は辻川 星夜・・・・・中学でも高校でも何をやらせてもひとより抜きんでていた、だからといって努力しているとか頑張っていると言う言葉は無縁だった。
授業も聞いているだけで頭に入った、スポーツもやってみると何でもそつなくできる。
やったことがあるわけでも何かを見て真似したわけでもない、それなのに誰よりも上手にできた。
同じ学年の生徒たちにとって、これほどムカつくことはない・・・・・・必死で勉強して頑張って練習して、それでやっと褒められるところまで来たというのに、俺は何の努力もなしに簡単にやってのける・・・・・・
男にも女にもなんの興味もないのに全ての人から羨望の眼差しで見られる程完璧な美貌を兼ね備えている。
むしろそんな話題さえ鬱陶しいと思っている。
生きていることさえめんどくさい、ただ息をしているだけ・・・・・・嬉しかったことも悲しかったことも心が震えたことも・・・・・ない。
好きな人も大事な人も寄り添ってくれる人もいない・・・・・・なぜ自分がここにいるのかさえ分からない。
自分の存在している理由が思い当たらなかった・・・・・・誰が自分をこの世に誕生させたのか知らない。
気が付いた時には大勢の子供たちと一緒に暮らしていた、みんなと一緒、食べるのも着るのも寝るのも起きるのも全部一緒、ここには個人とか個性とかは存在しない・・・・・皆が同じでなくてはいけない。
そうやって大きくなった。
何かに関心を持つことも誰かに興味を持つこともしてはいけない事・・・・・・
その目は何も見てはいない・・・・・・
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