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月を纏う人
電車を降りて誰もいない公園でベンチに座って月を見ていた、静まり返った夜の公園。
昼間のにぎやかな子供の声も母親たちも今はいない、薄暗い外灯の灯りだけのその場所で一人たたずむ。
旧暦13日の十三夜月・・・・・
満月の次に美しくまだ少し欠けた月、未完成ゆえの美しさが古来日本で愛されていた。
月に見惚れていると外灯の灯りが消えた・・・・・真っ暗な公園に降り注ぐ月明り、視線を落とした先に一人の長身の男が歩いてくる、まっすぐにこちらへ向かってくる男の人。
まるで月の光を纏うように歩く姿に見惚れてしまう、これまで感じたことのない胸の鼓動・・・・
ベンチに座る自分の正面に立った。
「こんばんわ」
「・・・・・・」
「一人?」
「はい」
「ぼくも」
「・・・・・」
「月を見ていたの?」
「はい」
「ぼくも」
「・・・・・・」
「一緒に見ていい?」
「はい」
「隣に座って大丈夫?」
「はい」
「今夜は十三夜月だね、好きなんだ・・・」
「ぼくも・・・」
「ん?」
思わず二人顔を見合わせて笑った。
こんなことは始めてだった、知らない人と話すなんて・・・・これまで誰とも関わらないようにしてきた。
それなのに・・・・・・笑っていた。
月の光を纏った彼が違う自分を引きずり出してくれたような気がした、笑うことなんてあっただろうか?
彼の笑顔は明るい月のように冴え冴えとして綺麗だった。
「明日も見る?」
「はい」
「ぼくも」
「・・・・・・」
「一緒に見よう」
「はい」
二人ベンチに座ってジッと月を見ていた・・・・・何も話さなくても隣に彼がいるだけで暖かかった。
誰かが側にいる事で暖かいなんて・・・・・・・知らなかった。
胸の中も温かくなっていく、一人で見ていた月が二人で見ることで温もりを教えてくれた。
明日の約束もした、明日もここへ来ればこの暖かさに逢えると思うと胸の中でときめきが生まれてくる。
始めてのときめき、始めての約束・・・・・明日になるのが少しだけ怖かった。
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