2.護られた命

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「ご飯にしようか」  いつもの様に、仕事帰りに俺の家に寄ってくれた静流。言いながら立ち上がった。 「静流、今日も急いで帰るの?」  台所でふたり並びながら、今日も聞く。最近は毎日聞いている。 「うん…お父さんが心配するから」  ここの所、静流はどんなに遅くなっても必ず家に帰る。父親の事を持ち出されると俺も弱い。おかげで最近はゆっくりと静流を抱けない。 「そうか」    実はちょっと心配事がある。  どうやら静流の父親は俺が気に入らないみたいで。何度か正式に挨拶に行こうとしたけど、静流に止められた。  ずっと昔から知ってる親父さんは、静流を溺愛しているのは当然知っているけれど。  父親が気に入らないのは、この俺の職業。  静流の父親としては、静流の結婚相手は自分の会社を手伝ってくれる普通のサラリーマンが良かったみたいだ。    ずっと昔、俺がまだ高校生の頃。静流の父親が俺に自分の会社に入って欲しがってた事があると、本当につい最近になって静流から聞いた。  その事…もっと早く聞いていたらどうだったかな。  でもきっと、それでも俺は俺の決めた道を進んだのではないかと思う。  俺は俺の決めた仕事で、静流を幸せにしてやりたかった。  けど、それがまず、静流を手に入れるための障害になってしまうとは。  看護師という仕事は、絶対に独立して起業する種類の仕事じゃない。常に医者ありきで成り立つ職業だ。  静流の父はそれが気に入らない。昔かたぎの静流の父は、静流の相手に一国一城の主である事を求めていた。  でも俺もせっかくなれた看護師という職業に、意地も誇り(プライド)もある。それを捨てて、いまさら会社勤めなどとは考えられない。    こればかりはなんとも… 「いつになったら静流と結婚できるのかな」  静流の父親にこんな事で反対されるなんて、想像もしてなかった。つくづく俺は考えが甘い。 「省吾…」  あ、だめだ。俺が暗い顔をしていては静流が気にする。 「まだ、結婚資金もろくに貯まってないから丁度いいのかな」    俺は勤めて明るく言い放ち、静流を軽く抱きしめた。    
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