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どの位時間が経ったのか。
外がすっかり暗くなったのを確認し、やっと勇気を振り絞り押入れから出る。
廊下の薄暗がりの中、息を潜めながら外からの灯りが射し込む居間へと移動する。
背伸びして居間の明かりのスイッチを押した。
そこに見えた、うつ伏せに倒れこんだままピクリととも動かないの母の姿。
その下の床に見える黒い大きな血溜り。
手には、さっきの銀色の包丁。
お母さん、と声に出して呼んだつもりだった。
けれど声が出なかった、口がその形に動いただけ。
子供部屋に行くと、やはり姉がうつ伏せのまま絶命していた。
ピンクのトレーナーの背中が真っ赤で、その横顔はまるで眠っているようで。
そこでもおねえちゃんと呼んでみたけれど、やっぱり声は出なかった。
再び居間に戻る。
さっきは気がつかなかったけど、あの嫌な男も壁にもたれたまま胸から血を流したまま動かない。
「……」
ふと、寂しくなった。
自分は今、この世界にたった一人でいるような気がしていた。
母を見ると、その手に握られたままの包丁が俺を呼んでいた。
『寂しいんでしょう?
これを手にしたらそれが終わるよ。
もう、寂しくなくなるよ…』
その声に誘われるように、母の手から包丁を抜き取った。
これを自分に向ければいいの?
これで胸を刺せば、それでこの寂しいのが終わるの…?
血まみれのその包丁の刃を、俺は何も考えずに自分の方に向けた。
『ほら、ちょっと力を入れれば終わるんだよ…』
本当に終わるのかな…寂しいのは嫌だな…
俺が腕を動かそうとしたその刹那。
「紗織――!!」
「!!」
真治おじちゃんの声…?
「省吾っ!!」
そして俺の名を呼ぶその声が、俺の手から包丁を取り上げた。
「省吾大丈夫だから…!!」
突然現れた大好きな真治おじちゃんが、俺をあの大きな身体で包み込み抱きしめてくれた。
おじちゃん…来てくれた…
本当に来てくれたんだ…
俺は真治おじちゃんにしがみついて、出ない声のままただ泣き続けた。
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