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「省吾、今日から俺を父ちゃんて呼べよ」
俺を施設から引き取ってくれた日、トラックを運転しながら真治おじちゃんが言った。
「言ってみな。と・お・ちゃ・ん、だ」
俺は出ない声の口元で父ちゃんと呼ぶ。
それを見ていたおじちゃんがにっこりと笑ってくれた。
「省吾はもうすぐ木沙省吾だ、俺の大事なひとり息子だぞ」
きさ・しょうご
それが自分の新しい名前。
大好きな真治おじちゃん…父ちゃんと同じ名字。
幼い俺はその意味がよくわかっていなかったのかもしれないけど、ただ大好きな真治おじちゃんが自分の本当の父親になってくれた事だけはわかっていたような気がする。
今日から父ちゃんと暮らせる事だけが本当に嬉しくて。
もう絶対乗る事もないと思っていた、父ちゃんのトラックの助手席に乗れた事がただ嬉しくて。
本当に、嬉しくて…
「着いたぞ、ここで昼飯食べような」
たどり着いたのは、どこか見知らぬ町の大きなドライブイン。
トラックやダンプがいっぱい駐車していた。
父ちゃんは寝台の端に置いた小さな三段ほどの戸棚から、俺の着替えを取り出した。
他にもタオルや下着。歯ブラシとかコップとか。本当に色々と入っている。
全部俺の為に用意してくれた物だった。
「ほら省吾、ちゃんとこれに着替えよう。パジャマは寝る時の物だからな」
そういって父ちゃんが着せてくれたその服は、トレーナーもズボンもかなり大きめだった。
「5歳児の標準のをくれって言ったんだけど…省吾、お前にはちょっと大きかったのかな」
ズボンの裾をめくりあげて、何とか格好をつけた。
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