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ある日の夕方、大阪の帰りによく寄るドライブインに行くと店の隅の方のテーブルに人だかりが出来ていた。
いつもの様に父ちゃんに背負われ、中に入った俺たち親子を見つけて誰かが叫ぶ。
「おい真さんだ!真さんが来たぞ!!」
テーブルの上にはかなり大きな無線機が置かれていた。
CB無線といういつも父ちゃんが使ってるパーソナル無線機よりもかなり遠くまで電波が届く強いヤツだ(違法)
「何かあったのか?」
俺をイスに降ろしてそのテーブルに父ちゃんが近づく。
「影虎が行方不明なんだ。あいつ今日の昼に国道の方で移動台貫の情報を聞いて、裏道入ったまま行方不明になっちまった。何かあったみたいで一度だけ無線が入ったんだけど、わけわかんねぇ事唸って切れちまって…」
「影虎が?」
影虎さんはここでよく会う個人業者の大型ダンプの運転手さんだ。いつも俺に声を掛けてくれる優しいおじさんだった。
俺を見る度に必ず抱き上げて元気かと聞いてくれる。自分にも俺と同じ位の娘がいるんだと言っていた。
「誰か地図持ってこい!!」
父ちゃんが怒鳴った。
「状況の説明をしろ、どの辺まで捜索してるんだ?」
父ちゃんの前に大きな地図が広げられた。
「今、仲間のダンプと乗用車が10台ほどで捜索してる。今日の昼にはこの辺りで石松がすれ違ってるんだ。移動台貫の情報が入ったのはその後だから、多分ここから迂回できるのはこの妙里山だと思ってな。今そこを重点的に捜索してんだけど」
「ああ影虎ならそっちに行くな、妙里の山道は二本ぐらいあったよな?」
「昔はあったけど今はがけ崩れの危険があって旧道は封鎖中だ。だからもう一方だと思うんだけど、まるで神隠しにあったみたいに影虎のダンプの痕跡がなくて。嫌な話、谷底とかも確認したんだけど」
「どこかに入り込んじまったな」
父ちゃんはその山の地図をまじまじと見て、何かを思いついたようにCB無線機のキャリアを握った。
「緊急時だ、回線を空けてくれ。俺は昇竜連合福島の烈火の真だ。妙里山捜索中の全車両に告ぐ、封鎖されてる旧道の近くに誰かいるか?」
しばらくして返答が戻って来た。
『はいよ、春日会の大工のゲンだ。少し戻れば旧道との分岐だが?』
「ゲンさんか、大型車かレジャーか?」
『レジャーだ、四駆』
「すまんが旧道から少し入った所の左手に地図に載ってない工事用の道路の入口があったはずなんだ。高速道路の橋桁作る時使ったやつ。そこを見て欲しいんだ」
『了解、行ってみる』
無線が切られた。
「真さん、工事用道路って?大型が通れるのか?」
「ああギリギリな、でも俺がまだ運送屋の助手だった頃にあった工事の話だから10年近く前なんだ。整備とかしてない筈だからまともに通れないとは思うんだけど、でも影虎は地元だから知っていたかもと思ってな」
父ちゃんはまだ地図を広げた。なにやら考え事をしているようだ。
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