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その人は、自分を母の兄だと名乗っていた。
大好きな真治おじちゃん。
すごく大きなトラックに乗っていて、そのトラックの箱部分には迫力のある鬼の絵が描かれていた。
あとになって、それが「夜叉」と呼ばれる鬼だと知った。
それが、地獄の烈火の中に立つ…
【 烈火の夜叉 】は、当時の真治おじちゃんの象徴だった。
半端なヤクザトラックは、その【烈火の夜叉】を見るだけで逃げ出したという。
それがのちに無線コールの由来となり、真治おじちゃんは【 烈火の真 】と、ずっと呼ばれるようになったのだ。
「省吾、ほら見晴らしいいだろう。ここから見える景色は本当に特別なんだぞ」
真治おじちゃんは、時々俺をトラックに乗せてくれた。
すごく高いコクピットの助手席から見えるその世界。大きなフロントガラスに身を乗りだし、顔をくっつけるようにその最高に素敵な世界を眺める。
「省ちゃん危ないわよ」
助手席の母が笑う。
俺が覚えている限り、真治おじちゃんと一緒に居る時の母は本当に心から幸せそうだった。
母が、とても美しい人だったのはなんとなく覚えているけど、真治おじちゃんと居る時以外はいつも悲しそうな顔をしていたように思う。
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