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親父が、死んだ俺のおふくろを好きだったらしいと初めて知ったのは、親父の幼なじみだという人が家に訪ねて来た時の事だ。
俺は高2ぐらいだったか。
その人は玄関先に対応に出た俺を見て、かなり驚いた様子だった。
俺は親父が帰宅するまでの時間、その人から少しだけ話が聞けた。
俺はおふくろにかなり似ているらしい。玄関先でその人が思わず絶句してしまう程。
『真治もまさかこんなに、息子が紗織に似るとは思わなかっただろうなぁ…』
実は俺、おふくろの顔を余り覚えていない。
別れ方がああだったから仕方ないけど、残っていた俺の家族の写真やら何やらは全部処分されたらしい。
ただ、血みどろで俺の為に振り上げられた包丁の鈍い光だけは覚えているのに…
『真治のヤツ…』
その人はその後の言葉を飲み込んだ。
だけど、俺にはその後の言葉がわかった。
俺がおふくろに似ている事が、辛くないのかと言いたかったのだ…
――その時から、俺は自分の顔が余り好きじゃない。
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