乙女の欲情

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 どうしよう。 こんなに突然に来るものなの? 私、菊ちゃんのことがもうはっきりと、『好き』なのだ。 そうなって来ると話が違ってくる。 関係性が狂ってくる。 イーブンではまるでない。 だって、菊ちゃんは私のことを本気で好きなわけではないのだから。 だって、彼は『佐原さん』でいいのだもの。 ズキンと、今度はもっと大きく心が軋んだ。 思わず胸元を押さえ込む。 「わ、私、どうやら本当にあなたに恋をしてしまったみたいで……」 「えっ!?」 菊ちゃんは大きく目を見開いた。 そりゃあそうだ。 いくらなんでも今日の今日知り合った間柄で、恋に落ちるなど信じて貰えるものではないだろう。 「その、だから……ごめんなさい。私、あなたに本気で好きになって貰わないことには、その……あなたに捧げることは出来なくなってしまいました」 期待だけさせておいてからにと、叱られてしまうのじゃあないかと私は及び腰で申し出た。 「えっ……!?」 菊ちゃんはまたもや、いや、更に大きく仰け反った。 う、うん、分かるよぉ、分かります。その気持ち。 私も期待が大きかった分、がっかりしているもの。 あ、あれよね?  ジェットコースターの順番待ちに二時間待ち続けて、ようやく番が来たと思ったら、身長が二センチ足りなくて、『申し訳ありませんが、規則ですのでご遠慮願います』って、言われた時の心境と同じだよね。  私が兄らと一緒に連れられて行った、初めての遊園地がそれだった。 期待と不安のドキドキの二時間を返せと、喚き散らして泣いていた。 「ごめんなさい。恋がどういうものかまるで知らなかったから、それならそれで疑似体験でいいやって、安易に考えてしまったの。でも、他人行儀のままやっぱりキスは出来ません」 「キ、キス!?――って、もしかして捧げるのはキスのつもりだったんだ?」 「えっ!?もしや、手を繋ぐだけとか、思っていましたか?」 「いや、違うけど……」 菊ちゃんはいよいよがっかりしているように見受けられた。 あれだ。 恋人同士がTVで映画とかを見ながら、まったりと恋人繋ぎしているシーン。 あるあるだよね。 確かにそれも上位ランクで君臨していますよ。 それで、その流れでチュウするやつ。 きゃああぁぁ……。 菊ちゃんを目の前にして、乙女の妄想は大爆発ですよ。 でも、やっぱりそこは心が伴ってこそだ。 思い直せて良かった。 「『佐原さん』でなく、『葵』って呼んでもらえるように先ずは頑張ります。私と本気でお付き合いしていただけないでしょうか?」 勢いよく手を差しだして、私は頭を下げた。 ドキドキドキドキドキドキ だあぁぁ……な、長い。 どれだけ待たすのさ。 我慢しきれずに恐る恐る見上げた先は、先ほど以上に熟れた顔の菊ちゃんだった。 「葵、何か思っていた以上だな」 は、早っ!? よく分からないままに、菊ちゃんは『葵』呼びを始めてくれた模様。 しかもちゃんと呼び捨てだ……。 うわぁぁぁぁぁぁ 想像以上にやられてしまう。 悦びが半端ない。 「菊ちゃん」 ゴメン、私は既にこちらで定着済みです。 「ん?」 「大好きです」 「ん、ありがとう」 菊ちゃんは私の額にキスを贈ってくれた。 私が地団駄を踏んで身悶えたのは言うまでもない。 こうして、晴れて恋人になれた私たちの解禁日は、きっと、おそらくそう遠くは無いのだろう。
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