4人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしよう。
こんなに突然に来るものなの?
私、菊ちゃんのことがもうはっきりと、『好き』なのだ。
そうなって来ると話が違ってくる。
関係性が狂ってくる。
イーブンではまるでない。
だって、菊ちゃんは私のことを本気で好きなわけではないのだから。
だって、彼は『佐原さん』でいいのだもの。
ズキンと、今度はもっと大きく心が軋んだ。
思わず胸元を押さえ込む。
「わ、私、どうやら本当にあなたに恋をしてしまったみたいで……」
「えっ!?」
菊ちゃんは大きく目を見開いた。
そりゃあそうだ。
いくらなんでも今日の今日知り合った間柄で、恋に落ちるなど信じて貰えるものではないだろう。
「その、だから……ごめんなさい。私、あなたに本気で好きになって貰わないことには、その……あなたに捧げることは出来なくなってしまいました」
期待だけさせておいてからにと、叱られてしまうのじゃあないかと私は及び腰で申し出た。
「えっ……!?」
菊ちゃんはまたもや、いや、更に大きく仰け反った。
う、うん、分かるよぉ、分かります。その気持ち。
私も期待が大きかった分、がっかりしているもの。
あ、あれよね?
ジェットコースターの順番待ちに二時間待ち続けて、ようやく番が来たと思ったら、身長が二センチ足りなくて、『申し訳ありませんが、規則ですのでご遠慮願います』って、言われた時の心境と同じだよね。
私が兄らと一緒に連れられて行った、初めての遊園地がそれだった。
期待と不安のドキドキの二時間を返せと、喚き散らして泣いていた。
「ごめんなさい。恋がどういうものかまるで知らなかったから、それならそれで疑似体験でいいやって、安易に考えてしまったの。でも、他人行儀のままやっぱりキスは出来ません」
「キ、キス!?――って、もしかして捧げるのはキスのつもりだったんだ?」
「えっ!?もしや、手を繋ぐだけとか、思っていましたか?」
「いや、違うけど……」
菊ちゃんはいよいよがっかりしているように見受けられた。
あれだ。
恋人同士がTVで映画とかを見ながら、まったりと恋人繋ぎしているシーン。
あるあるだよね。
確かにそれも上位ランクで君臨していますよ。
それで、その流れでチュウするやつ。
きゃああぁぁ……。
菊ちゃんを目の前にして、乙女の妄想は大爆発ですよ。
でも、やっぱりそこは心が伴ってこそだ。
思い直せて良かった。
「『佐原さん』でなく、『葵』って呼んでもらえるように先ずは頑張ります。私と本気でお付き合いしていただけないでしょうか?」
勢いよく手を差しだして、私は頭を下げた。
ドキドキドキドキドキドキ
だあぁぁ……な、長い。
どれだけ待たすのさ。
我慢しきれずに恐る恐る見上げた先は、先ほど以上に熟れた顔の菊ちゃんだった。
「葵、何か思っていた以上だな」
は、早っ!?
よく分からないままに、菊ちゃんは『葵』呼びを始めてくれた模様。
しかもちゃんと呼び捨てだ……。
うわぁぁぁぁぁぁ
想像以上にやられてしまう。
悦びが半端ない。
「菊ちゃん」
ゴメン、私は既にこちらで定着済みです。
「ん?」
「大好きです」
「ん、ありがとう」
菊ちゃんは私の額にキスを贈ってくれた。
私が地団駄を踏んで身悶えたのは言うまでもない。
こうして、晴れて恋人になれた私たちの解禁日は、きっと、おそらくそう遠くは無いのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!