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乙女の欲情
この春から社会人になった私――佐原葵は、晴れて恋を、いや、恥らいもなく言うならば、〇〇を解禁しようとしていた。
私は何でも用意周到に動くタイプで、苦手なことはさっさと終わらせておきたい性分だ。
生涯独身を貫く気持ちは無きにしも非ず、だけど、恋の一つや二つは経験してみたい。
だって、映画やドラマ、それに小説なんかではそこかしこに溢れているっていうのに、現実ではそうでもないなんて、何だか悔しいでしょう?
めくるめくような愛の中に、身も心も没頭してみたい煩悩は、私だって、ばっちり抱えているのだ。
だが、しかしだ。
『〇〇解禁』など宣ったところで、というか、純情無垢な乙女にはそもそも声を大にして宣えたものではない。
『ピー解禁』なんてはしたないことさえ言えやしない。
意味合いは同じでも、ニュアンスが違うでしょう?ニュアンスが。
と、とにかく、それは一人で出来るものではないし、パートナーを探さないことには解禁など出来ないのだ。
しかもこっちは受け身で構えているのがせいぜいの分野のことで、全てお相手任せときている。
申し訳ないが、男でなくて良かったと心底思う。リードなんて出来そうにない。
ん、待てよ?
もしも、私が男だったなら?
うぅん?
想像しにくいけれど、先ずは花束を贈りたい。
そこは、真っ赤な薔薇でなくてもいいの。
私の好み的にはガーベラが一番好きだ。
一生に一度はやってみたいシチュエーションだった。
意中の愛する人に花束を贈って、感激している彼女に向かって、真心を囁くの。
『好きだよ』って。
きゃわわわぁぁ。
これは身悶えるね。
ダメだ、この思考は完全に乙女の領分。
日本男子には逆立ちでもせねば無理だな。
少なくとも、私の周りにいる男にはいそうにない。
妄想癖故に話がそれたが、私が言えることはせいぜい『恋人募集中』と、可愛い子ぶったその程度のこと。
でも、人を好きになるって、どうすりゃあ言い訳?
真剣に交際するほど、心動かされる人なんてこれまでいたことないのよ?
こういうところは、人間的にどうかと私も思うよ?
だからこそ、少しばかり私は焦っていた。
「恋人募集中なら、佐原も参加しない?大学の同期から合コンの誘いがあるんだけど」
何とっ!?
これぞ神の啓示だ。
「はいっ、不肖佐原、心して参加しますっ!」
同じ部署の姉さん、いえ、新谷先輩からのお誘いに、私は勢いよく挙手をして食いついた。
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