<9・変化。>

4/4
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
「そうだ。奴等の生きた縄張り、目印になるようなもの。だからワクチンのようなものでは防げない。稀に使者に変わらずにいられる人間もいるが、基本的には小さなキズでもアウトだと思っておいた方が良い。……そして、使者に転じたニンゲンは、既に生命体としての活動は終了している。カウントも減っているはすだ」  そう言われて手の甲を見れば、確かにカウントは44に減っている。真奈美が死んだと見なされたということだろう。 「使者にしないためには、傷をつけられて人間が使者になる前に殺すしかない。使者になる前なら、普通の人間の武器でも殺せるからな。……ここまでで、何か質問は?」  質問。花林からすれば、気になることは山程あった。  御堂家の人間とはいえ、彼の外見からすれば年齢は二十歳そこそこ。前回の結界修復について見ているはずもないのに、何故そんなに使者について詳しいのか、とか。  あと何発、あの銃を使うことができるのか、とか。  この儀式を終わらせる方法が、果たして四十九人の生贄を差し出すこと以外にあるのか、とか。  考えれば考えるだけ疑問は噴出する。だが、その中でも一番気になったことは一つだった。 「どう、して」  掠れた声で、彼に問いかける。 「どうして、私を……助けてくれたの?」  使者を殺せば、使者に目をつけられる。雫であっても、使者を多数相手にできるだけの戦闘能力はない。つまり、花林を助けて使者を射殺する行為は、雫にとってもかなりのリスクを伴うものであったはず。  それなのに、何故?彼は花林を助ける選択をしたのだろう。実際に、茂木や真奈美、紀子といった者達は見殺しにしたと言われても仕方ない状況だというのに。 「……私は、聖人じゃない」  彼は少し沈黙した後に、そう口を開いた。 「だから、誰も彼も助けられないとわかっている以上、命の取捨選択はする。助けたい者だけ選んで助ける。無理に手を伸ばしたら、守りたい者も守れなくなるから」 「何で、私?私達、初めて会ったんですよね?」 「その通りだ。それでも私は、君を前から知っていた」 「え」  目を瞬かせる花林に。どこか眩しそうな瞳で、雫は言ったのである。 「弟を守ろうとする兄や姉に、悪いやつはいない。だから助けたかった、それだけだ。……私は妹を、救えなかったから」  罪悪感に塗れた声に、花林はそれ以上何も言えなくなった。  彼の過去に、一体何があったのだろう。それは、今の自分にはまだ訊いてはいけないのとなのではないかと、なんとなくそう思ったのである。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!