一ノ環・婚礼を控えて

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「こんな時間に二人揃ってどこへ行くのかね」 「フェリクトール様、遅くまでお疲れさまです。私たちはイスラの部屋に行こうと思いまして」 「勇者の?」 「はい。イスラが一人で寝ると言ったので様子を見に行くんです」  私が答えるとフェリクトールが訝しげに顔を顰めました。  呆れた顔で私とハウストを交互に見てきます。 「それで二人揃って様子を見に行くというのかね。君たちは暇なのか?」 「今までイスラがそんなこと言ったことがないもので、気になってしまって」 「本人が一人で寝たいと言うなら寝かせればいい。それにイスラは勇者だろう。普通の人間の子どものように目を離せないほど弱いわけではない。一人寝くらい問題ないじゃないか」 「たしかにイスラは強い勇者ですが、繊細なところもあるんです。だから心配じゃないですか」 「……繊細? 心配?」  フェリクトールは盛大な疑問を浮かべ「精霊族最強の男が、勇者に顔面スレスレで攻撃されたことがあるとぼやいていたが……」とハウストを見る。  その視線にハウストはなぜか居心地悪げに咳払いしました。 「……ブレイラは繊細だと言っている。ならばイスラは繊細なんだろう、きっと」 「…………まあいい、好きにしたまえ。君たちの問題にあまり口を挟む気はない」  フェリクトールは呆れた口調で言うと、「正式に結婚した後が思いやられる……」などと言いながら立ち去っていきました。  フェリクトールを見送り、またイスラの部屋へと足を向けます。  そしてとうとう部屋の前まできました。  扉の前でハウストと顔を見合わせて大きく深呼吸する。  一人で眠っているかもしれません。その時は見守ればいい。  一人のベッドで泣いているかもしれません。その時は一緒に眠ってあげましょう。 「イスラ、起きていますか?」  コンコン。ノックとともに声をかけました。  しかし返事はありません。眠ってしまっているのでしょうか。 「眠っているんじゃないのか?」 「一人でですか? そんな筈は……、あってほしいような、ないような……」  成長を喜ぶ気持ちと寂しい気持ちがせめぎ合う。複雑な気持ちです。  でもこのまま立ち去る気持ちにはなりません。眠っているなら寝顔だけでも見ておきたいです。 「私です、ブレイラです。入りますからね」  そう声をかけると静かに扉を開けました。  明かりが消えた薄暗い室内。窓から差し込む月明かりの中、ベッドに子どもサイズの膨らみがあります。  イスラは一人で眠っているようでした。 「やはり眠っているようだな。一人で眠れるようになったのか」 「そのようですね……」  無意識に視線が落ちてしまいます。  ダメですね。喜ばなければならないのに。  思わず自嘲してしまうと、ハウストが慰めるように肩に手を置いてくれました。 「こうやってイスラは大人になっていくんだ。明日になったら褒めてやろう」 「……そうですね、きっと喜びます」  私はなんとか笑みを浮かべると、「起こしてしまう前に」とハウストに促されて寝所を出ようとしました、が。 「イスラ?」  ふと足を止めました。  そして薄暗い中、ベッドの膨らみを凝視して耳を澄ませる。  ああ大変です!  だってベッドの膨らみがぷるぷる震えていて、「うっ、うっ」と微かな嗚咽が聞こえてきたんです。 「イスラ!」  思わずベッドに駆け寄っていました。  ベッドの膨らみを揺すると、頭から布団を被っていたイスラが顔を覗かせます。
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