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「こんな時間に二人揃ってどこへ行くのかね」
「フェリクトール様、遅くまでお疲れさまです。私たちはイスラの部屋に行こうと思いまして」
「勇者の?」
「はい。イスラが一人で寝ると言ったので様子を見に行くんです」
私が答えるとフェリクトールが訝しげに顔を顰めました。
呆れた顔で私とハウストを交互に見てきます。
「それで二人揃って様子を見に行くというのかね。君たちは暇なのか?」
「今までイスラがそんなこと言ったことがないもので、気になってしまって」
「本人が一人で寝たいと言うなら寝かせればいい。それにイスラは勇者だろう。普通の人間の子どものように目を離せないほど弱いわけではない。一人寝くらい問題ないじゃないか」
「たしかにイスラは強い勇者ですが、繊細なところもあるんです。だから心配じゃないですか」
「……繊細? 心配?」
フェリクトールは盛大な疑問を浮かべ「精霊族最強の男が、勇者に顔面スレスレで攻撃されたことがあるとぼやいていたが……」とハウストを見る。
その視線にハウストはなぜか居心地悪げに咳払いしました。
「……ブレイラは繊細だと言っている。ならばイスラは繊細なんだろう、きっと」
「…………まあいい、好きにしたまえ。君たちの問題にあまり口を挟む気はない」
フェリクトールは呆れた口調で言うと、「正式に結婚した後が思いやられる……」などと言いながら立ち去っていきました。
フェリクトールを見送り、またイスラの部屋へと足を向けます。
そしてとうとう部屋の前まできました。
扉の前でハウストと顔を見合わせて大きく深呼吸する。
一人で眠っているかもしれません。その時は見守ればいい。
一人のベッドで泣いているかもしれません。その時は一緒に眠ってあげましょう。
「イスラ、起きていますか?」
コンコン。ノックとともに声をかけました。
しかし返事はありません。眠ってしまっているのでしょうか。
「眠っているんじゃないのか?」
「一人でですか? そんな筈は……、あってほしいような、ないような……」
成長を喜ぶ気持ちと寂しい気持ちがせめぎ合う。複雑な気持ちです。
でもこのまま立ち去る気持ちにはなりません。眠っているなら寝顔だけでも見ておきたいです。
「私です、ブレイラです。入りますからね」
そう声をかけると静かに扉を開けました。
明かりが消えた薄暗い室内。窓から差し込む月明かりの中、ベッドに子どもサイズの膨らみがあります。
イスラは一人で眠っているようでした。
「やはり眠っているようだな。一人で眠れるようになったのか」
「そのようですね……」
無意識に視線が落ちてしまいます。
ダメですね。喜ばなければならないのに。
思わず自嘲してしまうと、ハウストが慰めるように肩に手を置いてくれました。
「こうやってイスラは大人になっていくんだ。明日になったら褒めてやろう」
「……そうですね、きっと喜びます」
私はなんとか笑みを浮かべると、「起こしてしまう前に」とハウストに促されて寝所を出ようとしました、が。
「イスラ?」
ふと足を止めました。
そして薄暗い中、ベッドの膨らみを凝視して耳を澄ませる。
ああ大変です!
だってベッドの膨らみがぷるぷる震えていて、「うっ、うっ」と微かな嗚咽が聞こえてきたんです。
「イスラ!」
思わずベッドに駆け寄っていました。
ベッドの膨らみを揺すると、頭から布団を被っていたイスラが顔を覗かせます。
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