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翌朝。
今日は視察に出かける日とあって、朝から城内は俄かに慌ただしくなっていました。
コレットや侍女たちは旅行支度を終えて側に控えてくれています。
「ブレイラ様、お支度は整っていますが出発までに最終確認をお願いします」
「ありがとうございます。ではイスラの荷物の確認も一緒にしてしまいますね」
「よろしくお願いします」
休んでいた部屋からたくさんの荷物が並べられた部屋に移動します。
広い部屋だというのに所狭しに私とイスラの旅支度が並べられていました。
でも確認作業といっても私は椅子に腰かけて見ているだけです。コレットが目録を手にして私に説明し、その指示で侍女たちが動いてくれました。
なんだか恐縮してしまいますが、ここで申し訳ないと私が動くとかえって邪魔だということは学習済みです。
こうして旅支度の確認作業をしていると、ふと侍女が慌てた様子で部屋に入ってきました。
「失礼します。ブレイラ様、大変ですっ。イスラ様の姿が見えなくなりました!」
「えええっ?!」
あまりのことに椅子から立ち上がる。
「そ、それはどういうことですっ!」
「それが、少し目を離した隙にイスラ様がいなくなってしまって……」
「そんなっ」
最近ずっと様子が変でしたがとうとう姿まで隠してしまうなんて。
しかも今日から視察旅行に出発です。時間を確認すると出発まで後一時間に迫っていました。
「とにかく急いで探しましょう! この城のどこかにいるはずです!」
そう指示すると、女官や侍女など私に仕えてくれている大勢の人々が城中を探し回ってくれます。
もちろん私も一緒に探そうとしましたがコレットに制止されてしまう。
「ブレイラ様、お待ちください。お気持ちはお察ししますがブレイラ様は魔王様の側にてお待ちください」
「でも大勢で探した方が早く見つかるかもしれません」
「もうすぐ出発の時間が近づいております。魔王様が留守役に信任を与える中、そこにブレイラ様の御姿がないというのは……」
「……た、たしかに、その通りですね」
コレットの言う通りでした。
まだ王妃でないとはいえ婚約者になったのです。魔王の不在時、城を守る留守役は大変な役目を信任される。その相手は馴染み深い宰相フェリクトールですが、だからこそ信任の儀は厳格でなければなりません。
「ご理解いただけましてありがとうございます。どうぞ、ブレイラ様は玉座の間へお急ぎください」
「分かりました」
魔王ハウストが儀式、儀礼、命令、謁見、それらを行なう時そこは玉座の間でなくてはなりません。たった数日間不在にする為の信任の儀も例外ではないのです。
私はイスラの捜索を侍女たちに任せ、コレットとともに玉座の間へ向かいました。
豪奢な装飾をされた巨大な扉。玉座の間です。
中に入るとすでに魔界の将校や大臣など高官たちがずらりと整列してハウストを待っていました。
「ブレイラ様はこちらです」
私はコレットに連れられて玉座の間の奥へ、壇上の下へと促されました。
隣にはフェリクトール宰相閣下。その隣にはハウストの妹姫であるメルディナが並んでいます。
私は壇上の下ながら最も玉座に近い場所に立たされました。
現在、玉座がある壇上に上がることが許されているのは魔王ハウストだけです。正式な王妃になると私も壇上に上がることになりますが、婚約中は許されていないのです。
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