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「遅かったね。何をしていた」
「すみません、イスラがいなくなってしまって」
フェリクトールに話しかけられ、さっきまであったことを話しました。
彼は最近のイスラの異変を知っていたので心配してくれます。
「見つかりそうなのか?」
「分かりません。出発までに見つかるといいのですが……」
「最近様子がおかしかったからね」
「はい。私もそれで気になって……」
こそこそと話していると、側で聞いていたメルディナが嘲笑を浮かべます。
私をちらりと見て鼻で笑ってきました。
「あの勇者の子どももあなたに嫌気がさしたんじゃなくて?」
「あなたには関係ありません」
イラッときて私も冷たく言い返す。
そんな私の態度にメルディナもカチンときたのか、ぎろりっと睨んできました。
「まったくお兄様も趣味が悪いわ。こんな人間の男を妃にするなんて、何を考えているのかしら」
「嫌味くらい隠れて言ったらどうです? 不快の感情を隠せないなんて情けないことです。ああでも、ワガママなお子様には難しかったかもしれませんね」
「あら、あなたも隠し切れていなくてよ?」
「とんでもない。あなたのことはハウストの大事な妹姫だと思っていますよ? 私の義妹になるわけですし」
「義妹ですって? わたくしが? 人間風情のあなたの? 冗談じゃありませんわ。あまり調子に乗らない方がよくてよ。お兄様だってきっと目を覚まされますわ」
「どんな妄想をしているか知りませんが、その妄想は妄想のままで終わりますのであしからず。せいぜい一人で楽しんでいなさい、妄想を」
「ッ、ただの人間のくせにっ……!」
小憎たらしいメルディナに、フフンと私も鼻で笑ってあげます。
最初の頃はメルディナに散々嫌味を言われていた私ですが、いつまでも黙って聞いてあげるほどお人好しではありません。
そう、重度のブラコンであるメルディナとは初対面の時から反発し合っていました。しかも婚約してから更に悪化の一途を辿っています。もちろんハウストの前では互いに隠していますが。
……本当はこんなふうにいがみ合っている場合ではないのは分かっています。
ハウストと幸せに暮らしていくためにもメルディナとは円満な関係を築かなければなりません。分かっています。分かっています、が。
「身分の違いも分からないなんて恥知らずな方ですこと。羨ましいくらいの厚顔無恥ですわ」
「どういう意味ですっ。もう一度言ってみなさい!」
「何度でも言ってやりますわよ!!」
「や、やめたまえ君たち!」フェリクトールが慌てて私とメルディナの間に入ってきました。
今にも掴み合いそうだったのが遮られ、フェリクトール越しにメルディナと睨みあいます。
「落ち着きたまえ。まったく二人して恥ずかしいとは思わないのかね」
呆れた様子のフェリクトールにはっとする。
気が付けば周りの将校や大臣も何ごとかと私たちを見ていました。
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