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「も、申し訳ありませんっ」
「あらフェリクトール。あなたは人間の肩を持ちますの?」
「私は一般常識の話しをしている」
「くっ、それは申し訳ありませんこと」
メルディナはツンとした口調で言うとそっぽ向いてしまいました。
素直に謝ればいいものを、そういうところが子どもなのですよ。
とりあえず私は自分を棚に上げて内心呆れました。でも彼女の存在が今後のハウストと私の関係に大きく関わっていることも分かっています。
今、この城で魔王ハウストと普通の人間である私の結婚を認めている者は少数です。フェリクトールをはじめ、幾人かの女官や侍女なども認めてくれています。
大臣や将校などの高官たちは中立といったところでしょうか。彼らは魔王に異を唱える気はないので、問題がなければ認めるというスタンスです。それに魔王に次ぐ権威であるフェリクトール宰相閣下が認めてくれているのも大きいでしょう。
しかし、それ以外の者達。特にメルディナの息がかかった者達は大反対しているのです。
ハウストの心証を気にして表立って反対の声を上げることはありませんが、私に対してはチクチクチクチクチクチクチクチクと嫌味を……。明らかな宣戦布告なので受けて立ってあげています。もちろんハウストには内緒ですよ、これは私に売られた喧嘩なので私が買うまで。
間もなくして衛兵が魔王ハウストの訪れを報せます。
玉座の間の扉が開かれ、ハウストが姿を見せました。
大臣将校が整列するなか、ハウストが壇上の玉座へまっすぐ歩いていきます。
私の目の前を通りすぎて壇上への階段を上り、皆を振り返って玉座にゆったりと座りました。
信任の儀の始まりです。
ハウストが城を離れる間、フェリクトールに信任が与えられます。たとえ僅かな期間であったとしても魔王の城を預かるということは重大な責務を伴いました。
今回ハウストとともに西都へ赴くのは、十二人で組織された大臣の中から二人、六人で組織された軍将校や大隊長たちの中から一人ずつが同行すると決まっています。
魔界の軍隊は陸軍、海軍、空軍という大軍隊を三人の将軍が纏めています。それ以外では、突出した魔力を持つ魔法部隊、特殊技能に卓越した特殊部隊、そして全ての分野において優秀な成績を修めた王直属精鋭部隊、その三部隊を三人の大隊長がそれぞれ纏めているのです。三つの特別部隊はいわゆるエリートですね。
この西都への視察へは、陸軍将校と王直属精鋭部隊大隊長が同行してくれます。
つつがなく信任の儀が進行し、ハウストが不在の間はフェリクトールに信任が与えられました。
「――――これにて信任の儀を終了する。フェリクトール、俺が不在の間は頼んだぞ」
「お任せください」
こうしてフェリクトールが信任を受け、無事に儀式が終わりました。
ハウストが玉座から立ち上がって壇上を降りてきます。
彼が私の目の前を通りすぎた後、側に控えていたコレットにハウストの後に続くように促されました。
「このまま出発いたしますから、ブレイラ様も魔王様の後に続いてください」
「えっ、このまま出発? イスラは?」
「……まだ見つかっていないようです」
「そんな……」
困惑しながらも流されるようにしてハウストの後に続いて歩きます。
その私の後ろを視察に同行する大臣や将校が続き、そのまた後ろを見送りの臣下たちが続いている。
こんな動いている行列の中で立ち止まる訳にはいかず、流されて歩くしかないのです。
でもこのまま視察へ出発してしまうわけにはいきません。だってイスラがいないのですから。
仕方ありません。ハウストに相談するしかないでしょう。
私は前を歩くハウストに小走りに近づき、「ハウスト、ちょっといいですか」と歩きながらこそこそ話し掛けます。
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