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「ブレイラ、こっち!」
「さっきのイルカ、可愛かったですね。他にも見つかりましたか?」
「ううん、みつからない。イルカもどっかいった」
「そうですか。でも海にはたくさんの生き物がいますから、きっとすぐに見つかりますよ」
「うん」
イスラは頷いて、「あっ」と声を上げて遠くの海面を指差す。
「とりだ!」
「あれは海鳥ですね」
「うみどり?」
「はい、海が大好きな鳥ですよ。魔界に帰ったら一緒に図鑑を見ましょうか。フェリクトール様の書庫ならきっと海の生物の図鑑もあるはずです」
「みる! ブレイラといっしょにみる!」
拳を握って大きく頷くイスラに私の頬も緩みます。
イスラは言葉数も少なく表情が乏しいので今も見た目は無愛想に見えることでしょう。でも私には分かっていますよ。今のイスラはとっても喜んでいます。
無邪気に喜ぶイスラの姿をいつまでも見ていたくなりますが、ああダメですね。今は大切なお話しをする時です。
「イスラ、私とお話しをしませんか?」
「おはなし?」
「はい、大切な話しがあるんです。どうしてもイスラに聞いてほしい話しが」
「オレに……」
イスラの眉間に小さな皺が寄りました。
その反応に思わず笑みが零れます。私はイスラの前に膝をついて目線を合わせ「大丈夫ですよ」と笑いかける。
「難しい話しではありません」
「ほんとか?」
「ほんとです。だから力を抜いてください、ほら」
もみもみ。眉間の皺を指でもみもみしてあげます。
するとイスラは照れ臭そうにはにかんで私の口元も綻ぶ。おかげで私の緊張も解れてくれました。
「イスラ」
名を呼び、イスラの小さな手を取って両手で重ねるように握り締めました。
紫色の大きな瞳をじっと見つめる。そして。
「私、ハウストと結婚しようと思うんです」
「…………けっこん?」
イスラが目をぱちくりさせました。
きょとんとしたまま「けっこんってなんだ?」と首を傾げます。
イスラは結婚がどういうものか分からないのです。そうですよね、イスラは勇者とはいえまだ五歳の子どもです。知らなくても当然でした。
そんなイスラに目を細め、私はイスラの手を握ったまま結婚について教えます。
「結婚とは好き合っている二人がずっと一緒にいようと皆の前で約束することです」
「ハウストとブレイラはすきとすきだから、けっこんするのか?」
「そうですよ」
「えほんにかいてあるのと、いっしょ?」
お伽話や童話を例に挙げてくれたイスラに私の顔がパッと輝く。
さすがイスラ、私の子ども。秀逸な例えです。
「そう、それです。物語の最後に『二人はいつまでも仲良くお城で暮らしました』で終わるでしょう? そのままずっと二人でいますよね? それをハウストと私もしようと約束したのです」
「それがけっこん……。わかった。ハウストとブレイラはけっこんするんだな」
イスラはこくりと頷きました。
良かった。納得してくれたようです。
「オレは? オレもブレイラがすきだから、けっこん?」
思わぬ質問に目を丸めました。
だってとても可愛いくて嬉しい質問です。
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