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「ふふふ、ありがとうございます。でもイスラは私の子どもなので結婚はできないのですよ」
「オレとブレイラは、……けっこん……できない?」
「そうなんです。私とあなたは親子ですから」
「そんな……」
イスラがショックで固まってしまいました。
純粋に大好きだと思ってくれる気持ちは嬉しいですがこればかりは仕方ありません。
今は子どもなので仕方ありませんが、一般常識や教養などイスラには教えなければいけないことがたくさんありますね。
「親子は結婚できないのですよ」
「そう……なのか……。オレとブレイラはけっこん、できない……」
イスラは視線を落としてしまいました。でも少しして小さな手でぎゅっとグーをつくる。まるでなにか重大な決意をしたかのような小さなグー。
不思議に思ってイスラに聞こうとしましたが、その前にイスラが私に問いかけてきます。
「ブレイラはハウストとけっこんするの、うれしいのか?」
いつになく真剣な様子で聞かれました。
それが移って私も緊張しながらも頷きます。
「はい。嬉しいです」
「ハウストのこと、すき?」
「好きです」
「…………そうか。ならいい。ブレイラはハウストとけっこんしろ」
「ありがとうございます。イスラにそう言ってもらえて嬉しいです。あなたが認めてくれなかったら、どうしようかと思っていました」
「ブレイラがうれしいなら……いいんだ」
「イスラ、ありがとうございます」
涙が込み上げてきました。
突然の話しでイスラもいろいろ思うことはあるのでしょうが、それでも認めてくれたことに感謝しかありません。
「ブレイラ。ぅっ、……うぅっ」
なぜかイスラの大きな瞳にもじわじわと涙が滲む。
そして大粒の涙をぽろぽろ零しながら抱きついてきました。
「ブレイラっ、ブレイラ~!!」
うええ~ん!! 子供特有の甲高い泣き声が甲板に響く。
イスラがこんなに子どもらしい大声で泣くなんて珍しいことです。
泣くほど喜んでくれている、……んですよね?
ハンカチを取りだしてそっと涙を拭いてあげます。ついでに鼻水も。
「イスラ、泣かないでください。ほら、チーンは?」
「うぅっ、チーン!」
「上手ですね」
鼻水と涙を拭いてもう一度イスラと向きあいます。
今度はイスラも涙を我慢してじっと私を見つめてきました。
「……だいじょうぶ、もうなかない。なくの、おしまいにする」
「えらいですね」
いい子いい子といつものように褒めると、またしてもイスラの瞳がうるっと潤む。
でも今度は泣くのをぐっと我慢したようでした。
――――以前のことを思い出しても、やっぱり首を傾げてしまいます。
甲板で結婚を打ち明けて以降、イスラは何かと我慢するようになってしまったのです。
どれだけ考えてもイスラの様子がおかしくなった理由が分かりません。
イスラは結婚を認めてくれたと思いましたが違うのでしょうか。いえそんな筈はありませんよね。もし認めていなければイスラははっきり意思表示するはず。
無愛想で言葉数の少ない子ですが思ったことや考えたことは明確に意思表示できる子です。
それなのにイスラは私にも話してくれません。それどころか私を避けているようなのです。
婚礼前の今、心配事や不安なことは多くありますがこれが一番の気がかりになっていました。
原因不明の事態にハウストと頭を悩ませていると、フェリクトールがこちらに歩いて来ます。
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