マリの部屋

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マリの部屋

「お邪魔しまーす……。」 「どーぞ、どーぞ。」  マリは玄関の買い物袋をどけて、サラを部屋に通した。  サラはちょっと緊張していた。  実は人見知りなところがあり、おしゃべりくらいなら大丈夫なのだが、部屋とか、人様のエリアに通されるとあがってしまうのだ。 「今、エアコンつけるから。」  コートのままソファーに座ったサラを見て、マリが慌てたように言った。 「外で飲むとばかり思って、エアコン消してったから、冷えきってるね。ごめん。」 「あ、そういうつもりじゃなくて💦」  自分がコートを着たままであることに気づいていなかったサラも慌てた。立ち上がりながらコートを脱ごうとすると、 「いーよ、いーよ。  部屋が暖まるまでは着てて。」  マリが片手をふりながら止めた。 「ごめんね、なんか私、イヤミな人?」  恐縮しきりのサラに、マリは笑った。 「そんなことないよ。  サラ、なんか変。いつもと違う。」 「日本ではこの状態を『借りてきた猫』と言います……。」  マリはウケた。 「グッド! 勉強の成果だね!  今、お茶淹れるから。紅茶、飲めるよね?」 「うん、ありがとう。」  マリの楽しそうな笑い声は、サラの緊張をほぐしたようだ。サラは座り直して部屋を見回した。  雑然とした広いワンルームの角に、本棚があった。 「あ、本だ、紙の本だ。  見てもいい?」 「どうぞー。」  サラは本棚に寄っていった。 「あ、絵本!  たくさんあるー!  ……けど、知らない絵本ばっかりだな。  こんなに知らない絵本ばっかりっていうのも、めずらしい。」  マリがお茶を運んできながら苦笑いで言った。 「そんなに知らないを強調されると辛いな。  それ、自費出版。  作者はぜんぶ私。」 「えっ。」  サラは自分の失態に、絵本を落としそうになった。  寸でのところで掴み直し、表紙を見た。 「綺麗な絵だね。  透明水彩?」 「うん。よくわかるね。」 「絵本好きだから。」  中を開いてみると、言葉はほとんどなかった。 「幼児向け?  にしては、絵がロリじゃないね。」 「幼児は感性豊かだから。  幼いからロリな絵を好むものだなんて、大人の思い込みだと私は思ってる。」 「すごい。  こだわりがちゃんとあるんだね。」  サラは見惚れるようにゆっくりと2、3ページめくって、ふと我に返り、 「あ、ごめん。  せっかくのお茶が冷めちゃうね。」 と、絵本を棚に戻してソファーに戻った。  マリは、 「いつでも見に来て。」 と、嬉しそうに言った。 「砂糖の代わりに柚子ジャム入れてみる?」 「え、柚子ジャム好き!」 「ほんと? よかった。  あったまるよね。」 「うんうん。これ、もしかして手作り?」 「うん。」 「すごーい!」  サラはマリに目を見張ってしまった。 「マリってさ、プライベートではすごく女の子らしいんだね。」 「ええ? これくらいで言われたら、褒め殺しかと思っちゃうな。」 「そ、そんなんじゃないって!」 「わかってる。サラはそんな人じゃない。  私は照れ屋なの。」 「もー! 照・れ・屋・さん!」  サラはマリの額を指先で小突いた。  マリは笑って肩をすくめた。
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