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それから僕たちは毎日おしゃべりをした。昨日見た夢のことだとか、昔飼っていた金魚のことだとか。
僕は、彼女がなぜ幽霊となったのかについては聞かなかった。彼女も、僕がなぜ他の人とは喋らないのかについては聞かなかった。それで僕たちは分かりあえていた。
僕は一日ごとに身体が怠くなっていくのに気がついた。残業で疲れているのかと思ったが、しっかり眠っても楽にならない。
それに反して、彼女は血色がよくなってきた。幽霊なのにね。会社の人たちは、ラップ音が聞こえることが増えたとか、物が勝手に動いたとか言っていた。窓に女性の影が映っていたという話もあった。
彼女が僕の生命力を吸い取っているということに、僕は気がついた。そしてそれは彼女の意思に関係なく起こる事象のようだった。
だが僕はそれで一向に構わなかった。彼女に会えなかったら、僕もいずれは死んだ目の人間の仲間入りをしていただろう。僕が真の意味で生きた人間でいられたのは彼女のおかげだ。だから彼女が無意識に僕の命を求めていることは、むしろ僕を歓喜させた。
このまま彼女に命を吸い尽くされれば、僕も幽霊となって彼女と共にいられるだろう。それは僕にとって単なる死ではなく永遠の生であり、甘美な計画だった。
だが、彼女は気がついてしまったようだ。心優しい彼女のことだ、きっと僕の命を削ることに耐えられなかったのだろう。その辺にあったペンや紙を動かして僕に手紙を書き、幽霊として現世に留まることをやめてしまったのだ。
彼女は、自分は悪いことをしたから天国へは行けないと思っているみたいだけど、それは違う。僕自身が彼女に命を吸われることを望んでいたのだから。
むしろこれから僕がしようとしていることのほうが、きっと悪いことだ。彼女が僕に望んだこととは反対のことをするのだから。
一人暮らしの家に帰り着いた僕はロープを括りながら考える。彼女は一時でも僕と過ごせたからそれだけで満足だと言ってくれたが、僕は違った。どうしても永遠が欲しかった。僕は自分で計画をやり遂げる。
それこそ彼女と同じ場所には行けないのかもしれないが、何とかして辿り着いてやる。彼女には僕と離れた理由があり、僕には彼女から離れない理由があった。ただそれだけだ。
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